第三章『奪われたオウキ』77
★夜衣斗★
戦闘中だと言うのに、思わず別の事に気を取られていたせいで、頂喜武蔵に不意を突かれ、キバを星波町の更に上空まで吹き飛ばされてしまう。
上空にまで武霊活動限界範囲があるらしく、途中で唐突にキバを吹き飛ばした黒い光線と、キバが掻き消える。
まずい!
大慌てでキバを再具現化、同時に頂喜武蔵と自分の間にシールドサーバントを展開して、オーバードライブ。
ほぼ同時に、頂喜武蔵から黒い光線が撃ち出され、シールドサーバントの黒いシールドと相まって少しの間、視界が塞がれるが………今のはかなりヤバかった。
思わずため息を吐くと共に、黒い光線を防ぎ切ったシールドサーバントがオーバードライブの影響で霧散。
再び対峙する頂喜武蔵は………何故か笑っていた。
それも、再び悪寒が走る様な、何かがある笑みを。
「てめぇに見せてやるよ!俺の武霊の切り札を!」
そう叫ぶと共に、頂喜武蔵は身に纏う武霊をオウキからガチャポンマンに変えた。
意味が分からないが、その行為に嫌な予感を感じ、キバを突撃させる。
キバの突撃が届くより早く、頂喜武蔵は次の行動に、予想もしていなかった行動に移った。
頂喜武蔵は、自分が身に纏うガチャポンマンの胴体に、無数の武霊のガチャポンが入った部分に思いっきりパンチを入れ、破壊。
それにより、中に入っていたガチャポン達がぼろぼろと零れ落ち………次々と勝手にひら…………おいおい!まさか!?
目の前で起こっている事に、俺は瞬時にある可能性を思い付いた。
複数の武霊を借りている状態のガチャポンマン。
だが、実際は一体一体しか取り出せない。
取り出せないが、今みたいに容器ごと壊して、中身を全て取り出したら………どうなる?
………答えは決まっている。
ガチャポンマンの姿が瞬時に変容し始める。
ぐにゃぐにゃと怪獣やロボットやヒーローやありとあらゆる架空の存在の粘土をこねくり回しているかの様な姿に………。
瞬間、突撃していたキバが急激に下降した!?
俺が何かを命令するより早く、キバは地面に激突し、大穴を開けた。
周囲に展開していたオウキ・キバのサーバント達も同様に急降下した事から考えて………俺が頂喜武蔵と最初に合った時に使われた重力増加の武霊の能力。
………つまり、『頂喜武蔵が借りた全ての武霊の能力を使える化け物』になる。
さて………どうしたもんかな?
俺はキバの具現化をいったん解き、再具現化しつつ、深いため息を吐いた。
一体何人ぐらいの武霊使いから武霊を強制的に借りているのかは知らないが、それら全てを使えるとなると………
頂喜武蔵の周りに炎の鳥やら、電撃の塊やら、これでもかって感じに様々なものが具現化する。
同時に、ウィングブースターの負荷が強まり、重力が増し始めるのを感じた。
くそ!広げられるのか!重力増加の範囲………ん?重力増加?
ふっと思って、下を見る。
頂喜武蔵の下の建物が、急激な部分重力増加で歪み、一部が壊れ始めているが見えた。
………このまま町の上はまずいか。どこに町の人達が避難しているか分からなし、調べる事を失念していた。このままじゃ知らず知らずの内に巻き込みかねないな…………とりあえず、
「キバ!エアバイクモード!」
逃げよ。
★???★
頂喜武蔵が借りている武霊全ての能力で攻撃しようとした時、夜衣斗はキバをバイクにし、乗り込んで海の方へと逃げてしまう。
地上で見せたバイクモードと若干違い、ウィングブースターに、後部ブースターが複数現れている。
そのせいか、複数の武霊能力を同時に使って飛行速度が上がっているはずの頂喜武蔵は直ぐには追い付けず、結局は海の上へと戦いの場が移る事になった。
海の上で止まった夜衣斗は、直ぐにキバから降り、バイクモードを解除してオーバードライブ。
そして、頂喜武蔵が追い付くの待つ。
その姿を目撃した頂喜武蔵は、獰猛な笑みを浮かべる。
(なめたまねをしやがって!)
「どこに移動しようと!俺を殺せねてめぇに、勝ち目なんかねぇんだよ!」
夜衣斗と再び対峙した頂喜武蔵はそう叫ぶと同時に、今まで以上に大量のサーバントをごちゃまぜ武霊から射出。
そのサーバントの姿は、ごちゃまぜ武霊と同様にぐちゃぐちゃになっており、とてもサーバントだと思える様な姿ではなかった。
それに何を思ったか、夜衣斗がため息を吐き、こちらもキバから今まで以上のサーバントを射出。
同時に、
「サーバント。オーバードライブ」
そうつぶやき、射出されるサーバントを次々とオーバードライブ化させ、頂喜武蔵に向けて突撃させる。
突撃してくるキバのサーバント達を、ごちゃまぜサーバント達が迎え撃つ。
ごちゃまぜサーバントは通常のサーバントではありえない、炎や冷気・電撃などを同時に身に纏い、放出しながらキバのサーバントに突撃。
キバのサーバント達の方が圧倒的に攻撃力が上がっているオーバードライブ状態だと言うのに、ごちゃまぜサーバントに一機一機その動きを止められ、相殺されて霧散してしまう。
互いのサーバント達が相殺合戦を繰り広げている中、キバは両腰の簡易格納庫を開き、そこから巨大なガトリングガンを二丁銃身だけ出し、頂喜武蔵に銃口を向ける。
「………方針を変える。てめぇは………死ね」
ぼそっと、頂喜武蔵に聞こえるか聞こえないかの声で、夜衣斗が言い、頂喜武蔵はその言葉を鼻で笑った。
夜衣斗は、自警団連中と同種。
だから、ただのはったりだと。
そう思ったからだ。
だが、次の瞬間、
ガトリングガンの銃身が高速回転し始め、銃口から黒いレーザー光線が連射される。
寸分違わず、頂喜武蔵に向け。
銃身が回転し始めたのを確認した頂喜武蔵は、同時に悪寒を感じ、反射的に周囲に強力な重力場を形成させた。
それにより、レーザーは曲がり、頂喜武蔵に当たらなかったが、直撃していれば確実に死んでいた。
「てめぇ!」
殺す気か!
そう言うより早く、後ろで爆発音がする。
ただの爆発音ではなく、水上のだ。
町の方へレーザーがそれたと思っていた頂喜武蔵は思わず背後を確認すると、いつの間にか、オーバードライブしたシールドサーバント達がシールドを張って展開されており、それによってレーザーが海の方にそらされたのは一目瞭然だった。
しかも、それだけでは留まらず、レーザーにより生じた水蒸気が、不自然に上空にまで上昇し、視界を塞ぐ。
僅かに見える海面には、ウィザーサーバントがいるのが見え、水蒸気の上昇はそれによるものだと分かるが、その真意が分からず困惑する頂喜武蔵。
だが、直ぐに、思い出す。
夜衣斗は、「方針を変える」。
そう言ったのをだ。
ぞわっと、体毛が逆立つ感覚。
恐怖ではない。
むしろ、歓喜。
頂喜武蔵にとってあらゆる負の感情は、本能を奮い立たせ、満足させる快楽。
特に殺意は、その最たるもの。
両手に大剣を生じさせ、勘に任せて上に構える。
その勘は的中し、両腕に強い衝撃。
キバのホーンブレードを受け止めた頂喜武蔵は強力な斥力を生じさせ、キバと同時に水蒸気を吹き飛ばす。
そして、水蒸気に視界が塞がれる前と同じ場所にいた夜衣斗に片手の剣を向ける。
「いいぜ!てめぇがそうなら、やろうじゃねぇか!殺し合いをよぉ!!!!」
そう叫び、歓喜の笑い声を上げながら、頂喜武蔵は夜衣斗に向かって突撃した。