第一章『武霊のある町』12
★美羽★
「学園大橋前で、高神姉弟に襲われました。至急警報と救援をお願いします」
キゾウに追われながら、私は携帯電話で自警団に連絡を入れていた。
忘却現象で武霊に関する事を伝えるのに、『普通の携帯は星波町では使えない』。でも、この携帯は星波町で全て『完結』する仕様になってる特別製の『星波町限定携帯電話』。通称『星電』なので、普通に自警団と連絡を取れている。
「わかりました。今から警報を流します」
連絡担当の美坂ゆかりさんがそう言うと同時に、サイレンが聞こえ始める。
「「学園大橋付近にて武霊使い同士の戦闘が確認されました。付近の住民並びに外出中の人は、安全の為、避難してください。また、これから安全が確認されるまで、学園大橋付近への接近を禁止します。繰り返します。学園大橋」
なんだか災害警報みたいでやだけど、実際に武霊使い同士の戦闘は災害に近いから仕方がない。特に、私や高神礼治の様な『レベル2』の武霊使いは、戦闘の度に町を破壊している。
レベルとは、武霊の具現化レベルの事。今の所、レベル3まで確認されていて、1が『通常具現』、2が『巨大化具現』、3が『憑依具現』。
レベル2に至ってる武霊は、巨大化している分、その攻撃範囲が広がるから、レベル2同士が戦闘をすれば、町に被害が出るのは確実で……。
「赤井さん」
「あ!はい」
冷静なゆかりさんの声で、私は感傷から引き戻された。
「現在、レベル2に達しているこちらの武霊使いは、全員連日のはぐれとの戦闘で、レベル2化出来ない状態にあります」
やっぱり……そうじゃないかと思った。
はぐれの次の発生は、今までは、一週間以上経って起ってた。でも、昨日はまだ二日しか経ってなかったのに発生した。しかも、大量に。だから、春子さんは油断して、夜衣斗さんを迎えに行かなかったみたいなんだけど……。当然、その油断は自警団の人達にもあって、はぐれの対応に遅れ、『治療系の武霊の治療』が間に合わないほど怪我人も多く出たって聞いてる。それに、レベル2の具現化は、武霊使いに負担が大きく、人によっては意志力の回復に数日かかる場合があって、私はなんとなくゆかりさんの言葉を予想していた。
……一人で何とかするしかないか……でも、礼治は何とかなるとしても、逃げている夜衣斗さんは、麗華の事を何にも知らない。あの『恐ろしい、麗華が最も武霊使いを殺している理由である武霊の能力』を……早く礼治をなんとかしないと!
「無茶をしちゃ駄目よ。こっちも何とか自警団以外の武霊使いに連絡を付けてみるから」
私の雰囲気が変わったのを携帯越しに感じたのか、ゆかりさんが心配そうにそう言ってくれた。
「はい。わかりました」
そうは言ったけど、私はあまり期待していなかった。
確かに、自警団以外の武霊使いなら、元気な人はいるとは思うけど、相手があの高神姉弟だって聞けば、ほとんどの人が応援を拒否すると思う。それほど高神姉弟は、武霊使い達にとって恐怖の対象だから……。
携帯を切り、私は覚悟を決めた。
「コウリュウ。キゾウを倒すよ」
私の言葉に応える様に吠え、旋回し、追って来ていたキゾウと対峙した。
夜衣斗さん。すぐに行きますから、無事でいて下さいね。
私はそう心の中で呼び掛け、コウリュウが大きくなるイメージを強く浮かべる。
その瞬間、コウリュウは巨大化し、抱き抱えられていた私はコウリュウの右掌に指を支えて立ちあがった。
「行くよ。コウリュウ!」