第三章『奪われたオウキ』74
★夜衣斗★
キバの攻撃のほとんどは、オウキを貫通したとしても頂喜武蔵に届かない、もしくは直ぐに絶命しない様な位置への攻撃だった。
………まあ、ゴミみたいな……ゴミより劣る様な奴なんて死んでも特に気にしないんだが………誰かが、俺自身が奴を殺すとなると………それはつまり、奴と同等、もしくはそれ以下になる事を意味している。
例え、どんな理由があるにせよ。
人殺しは人殺し。
一生せずに済むならそれに越したことがない。
………しかし、本心から言えば……………殺してやりたいと激情に駆られているのは確か。
ひよりさんや、団長さん達、未だに安否が分からない美羽さん達。
俺の知っている人が、頂喜武蔵、こいつのせいでどれだけ傷付いているか………許せない!許す事が出来ない!殺してやる!
そんな激情に駆られているせいか、オーバードライブモードを使っていると言うのに、意識のぐらつきを全く感じず、辛くもなかった。
………いや、多分、それが原因じゃないな………もしかしたら、あの魔力孔って奴を認識した事が関わっているかもしれないが………まあ、余計な思考は今はするべきじゃないな。
俺はゆっくりと息を吐き、静かに息を吸った。
それを数度繰り返し………少し激情が収まった所で、改めて周りを見渡す。
今、俺がいるのは雲の上。
頂喜武蔵により雲の中まで押し込まれた俺とキバは、すぐさま、雲の上に出た。
俺は、戦いのプロって訳じゃない。
喧嘩慣れしているって訳でもないので、視覚情報に頼った戦い方にどうしてもなってしまう。
そんな奴に、視界がほとんど塞がれている雲の中は、殺さずの条件を加えれば、非常に不利な場所だと思ったから雲の上に出たんだが………。
PSサーバントによるもう一つの視覚では、雲の上を飛び回っているスカウトサーバント達から送られてくる情報が映し出されている。
………困った事に、その情報は普通なら(王継戦機内での話)視覚映像の中に文字情報も含まれているはずなんだが、武霊の制限のせいで、その部分は文字化けしていてさっぱりわからない。
それでもそれ以外の情報だけでなんとか判断するなら………どうやら頂喜武蔵はドッペルゲンガーサーバントを無数に出して、オウキの偽者を大量に作り出している様だった。
ドッペルゲンガーサーバントはオーバードライブまで再現できないから、オーバードライブモードを向こうは解いているって事なんだろうが………まあ、そうする事により、こっちがより下手な攻撃が出来なくさせているんだろうが………他人の命を何とも思ってない上に、自分の命すらあっさり打算で使う………だから嫌いなんだこういう連中は………。
思わず舌打ちをしそうになったが………止めて、代わりに深いため息を吐く。
………まあ、とりあえず………
「セレクト。ウェザーサーバント………五十機!」
★???★
オーバードライブを解いたオウキを身に纏い、頂喜武蔵は雲の中に潜んでいた。
オーバードライブモードを解く事により、夜衣斗が下手に攻撃出来なくさせたのだが………実際は、もう一つ理由があった。
それは、オーバードライブを使い続けていた時に頂喜武蔵が感じた意識の薄れ。
武霊使い強化薬により無限供給されているはずの頂喜武蔵の意志力。
つまり、オウキのオーバードライブは、その供給量を上回る意志力消費と言う事になる。
オウキのスカウトサーバントから送られてくる映像から、雲の上に逃げた夜衣斗は、未だにキバのオーバードライブを維持し、平然としていた。
(どれだけ化け物なんだよ)
思わずそう思いながら、頂喜武蔵は笑みを浮かべていた。
(例え化け物でも………良心を持った化け物ほど退治しやすいものはない)
そう思い、反撃に転じようとした時、突然強風が発生した。
それは不自然な風だった。
スカウトサーバントにより得られる情報から、町の上空の至る所で強風が吹き荒れ、そのどれもが違う方向に、町の中心から外に向かって吹いている事を確認した頂喜武蔵は、ある事を思い出す。
説明書の後ろに書かれていたサーバント。
『ウィザーサーバント』
大気や水を操り、天候を操るプロペラ型のサーバント。
(そいつを使っているのは間違いないだろうが……一体いつそんなサーバントを出したんだ?)
頂喜武蔵は夜衣斗達が雲から出てからずっとスカウトサーバントを通して監視していた。
だから、そんな事をすれば直ぐに気付くはずで、戦闘中にそんなサーバントを出している様子もなかった。
(そもそも、スカウトサーバントから送られてくる情報の中に、そんなサーバントの反応がねぇじゃねぇか!………いや、待ってよ?)
再びある事を思い出した。
ウィザーサーバント同様に、説明書の後ろに書かれていたサーバントの事を。
瞬く間に星波町の上空が星空となり、夜衣斗とキバの姿を視認出来るようになる。
そして、同時に頂喜武蔵は気付いた。
オウキの頭部にいつの間にかタコの様なサーバントが張り付いている事を。
『ハッカーサーバント』
取り付いた機械の電脳にハッキングを仕掛けるサーバント。
「てめぇ………いつこんなサーバントをくっつけやがった!」
近くにキバのスカウトサーバントが居る事を確認した頂喜武蔵は、そのスカウトサーバントに向かって叫び、頭部にくっ付いたハッカーサーバントもぎ取り、握り潰した。