第三章『奪われたオウキ』73
★???★
互いに禍々しい黒い鬼の姿になったキバとオウキ。
もっともオウキは頂喜武蔵が身に纏うレベル3である為、その姿は半透明ではある。
それでも禍々しさは変わらず、その様子を遠く離れた場所で武霊チルドレンの一人・呼衣は見ていた。
土砂降りの雨が降っているので、普通に視覚で見る事は出来ない。
だから呼衣は、自身の武霊を使って、遠くの出来事を映す鏡を出していた。
その鏡は、亮達が頻繁に使っている鏡と全く同じ物だったが、こちらは複数出しており、それぞれ一つ一つにキバとオウキ・黒樹夜衣斗・東山賢治と幸野美春・西島さゆり、ひよりと高木弥恵・赤井美羽と飛矢折巴、そして、今、星波町で起こっている『もう一つの事件』達と『その元凶』を映していた。
「………これは………お父様が喜びそうね」
そう言って、呼衣は星波町の各地で起こっている混乱に、冷笑を浮かべた。
★夜衣斗★
「セレクト!ホーンブレード!」
俺の命令に、キバの黒い角が巨大な黒い刀身になり、同時にキバがオウキに対して突撃を開始する。
その突撃を、頂喜武蔵は右手の刀で上に弾き、空手の左手に拳銃を出し、弾かれた事により頭を上げていたキバの胸部に向かって連射する。
放たれた黒い弾丸がキバの胸部に当たるが、全て黒い装甲に弾かれ、弾かれた弾丸は地面や塀に当たり、爆発し、大きな穴を穿つ。
このままじゃいくら武霊で壊れた物が元に戻るとしても、被害がでかくなり過ぎる。
そう思った俺は、キバに弾かれた勢いを殺さずにそのまま飛び上がらせ、全身を回転、後ろ足で頂喜武蔵の顎を蹴り上げさせた。
馬がサマーソルトキックをするとは思わなかったのか、頂喜武蔵はもろに蹴りを喰らい、垂直に吹き飛ぶが、直ぐにウィングブースターを展開し、勢いを殺して空中に浮く。
俺はその隙を逃させず、キバの背中にウイングブースターを展開、同時に臀部に補助ブースターも展開させ、一気に飛び上がらせ、そのまま頂喜武蔵に突撃させる。
頂喜武蔵にホーンブレードが突き刺さる寸前、頂喜武蔵はウィングブースターを片翼だけ使い回転。
ホーンブレードをギリギリかわされるのと同時に、頂喜武蔵は刀でキバを斬り付ける。
キバは頂喜武蔵の剣撃をまともに受け吹き飛ばされるが、装甲に僅かな傷を付けただけで済み、直ぐに修復された。
更に追撃を掛けようとする頂喜武蔵に、俺はシールドサーバントの一機をオーバードライブさせ、黒いシールドを張らせながら突撃。
よける暇もなく突撃され押し飛ばされる頂喜武蔵のその進行方向にも、オーバードライブさせたシールドサーバントを展開させ、挟み込む。
挟み込まれた頂喜武蔵は、身動きを封じられ、動く事が出来ない。
オウキのサーバント達が、キバのシールドサーバントを破壊しようとシールドサーバント達に襲い掛かるが、オーバードライブ中のシールドサーバントはびくともせず、更に強い力で頂喜武蔵を封じ込める。
俺は頂喜武蔵が完全に動けなくなった事を確認し、オウキのサーバントをキバのサーバントで牽制しつつ、PSサーバントを飛行モードにして頂喜武蔵の前まで飛んだ。
一瞬、言葉に迷ったが、
「………死にたくなければ………降参しろ」
っとシンプルな事を俺が言うと、身動きが取れない不利な状況だと言うのに、頂喜武蔵は笑みを浮かべた。
「やっぱりそうか」
?
「てめぇは連中と同じだ」
………やっぱり気付かれたか。まあ、当然と言えば当然だが………これはヤバいな………。
「俺を殺せねぇ!」
そう頂喜武蔵が叫ぶと同時に、一体どこにいたのか、大量のシールドサーバントが下に現れ、ヘキサ型に、まるで蜂の巣の様に展開し、シールドを張って迫ってくる。
………フォーメーションウォールか………説明書って奴にはこんな事まで書かれているのか………。
迫る不可視の壁に押され………いや、不可視の地面に押し上げられ、俺とキバと頂喜武蔵は土砂降りの雨を降らす雲の中へと入った。
視界が完全に塞がれるのと同時に、PSサーバントの脳内ディスプレイに送られてくる情報が、頂喜武蔵を抑え込んでいたシールドサーバントが限界を迎え、消滅した事を示した。
キバはエネルギーを過剰に送る事により、サーバントをオーバードライブさせる事が出来るが、オウキやキバのオーバードライブ同様に、それは機体に強烈な負荷を掛ける。
自動修復機能があるオウキとキバなら、その負荷を常時修復する事により多少は和らげる事が出来るが、その機能がないサーバントは当然、その分だけ活動時間が短くなる。
どうもそれを見越されていた様だ。
そして、分厚い雨雲により視界が塞がれているこの状況は、いくらサーバントにより通常の視覚以外の情報を得られるとは言え………
「殺せないお前には不利な状況だよな!」
そう言って高笑いを上げる頂喜武蔵の声が聞こえた。