第三章『奪われたオウキ』71
★???★
全力攻撃を繰り返す美春と賢治だったが、そのどれもが決定打になる様な攻撃にならず、ただ消耗するだけの状態だった。
厄介なのは、暴れるレベル4武霊達。
いくら美春達や頂喜武蔵の攻撃が当たったとしても意に返さず暴れ回る。
レベル4武霊達の攻撃対象は美春達ではないが、確実に美春達の戦いの邪魔をしており……だからこそ戦いが続いていると言えた。
何故なら、初めこそ美春達の連携攻撃に押されていた頂喜武蔵だったが、オウキと言う圧倒的に手数の多い武霊を使える分、徐々に徐々に二人を圧倒し始め、もし、暴れるレベル4武霊達がいなければ、頂喜武蔵の圧勝と言う形で、既に決着は付いているはずだった。
更にまずい事に、レベル3の具現化を維持し続けていた美春に限界が訪れようとしていた。
道路を疾走しながら降り注ぐサーバントを避ける美春。
賢治はその背中で避けられないサーバントを撃ち落としながら、コロ丸の背中から美春の限界を感じ取っていた。
さきほどまで同じ状況にあったのなら、サーバントを撃ち落とす合間に頂喜武蔵へ攻撃出来たが、今はサーバントを撃ち落とすだけで精一杯だった。
レベル3は強力な分、その消費意志力は激しく、短時間しか使えない。
だからと言って、レベル1・2で相手を出来るほど頂喜武蔵は、オウキは弱くなく、レベル3での戦いは危険な賭けだったがやるしかなく、対する頂喜武蔵も同じレベル3なはずだが、消費している様子は欠片もない。
(黒樹君の証言にあった薬を使ったと見るのが自然だが………くそ!これはいくらなんでも反則だろう!?)
賢治が心の中で悪態を吐いた時、コロ丸具現化が唐突に解けた。
「な!っく!美春!」
空中に投げ出される形となった賢治は、慌てて空中で無理矢理体勢を変え、意志力の使い過ぎで意識を失った美春を抱き寄せ、自分が下敷きになる様に体勢を更に変えて着地。
全速力で走っていたコロ丸の勢いのまま道路を滑る二人。
水飛沫を上げながら何メートルも滑り、民家の塀にぶつかってようやく止まる。
土砂降りの雨が降っていなければ、背中に大怪我を負っていたであろう勢いだった。
しかし、雨水によりダメージが軽減されたとは言え、無事と言うわけではなく、意識を失っている美春を抱えていた事もあり、塀にぶつかった際、賢治は後頭部を強打、意識を失ってしまう。
賢治の手から十字銃が消え、意識を失った二人の側にオウキを身に纏った頂喜武蔵が降り立つ。
頂喜武蔵はにやにやとしながら、その拳を振り上げる。
その拳が振り下ろされる。
瞬間、頂喜武蔵はくの時になって横に吹き飛ばされた。
(くそが!一体何だってんだ!)
何かに吹き飛ばされた頂喜武蔵は心の中で悪態を吐きながら、空中で体勢を整え、足から着地する。
そして、自分を吹き飛ばしたものの正体を確認した。
それは、一切音を出していない馬を模した白銀の大型バイク。
(エンジン音がしねぇ………って事は武霊なんだろうが………)
問題はそのバイクに乗っている者だった。
そのバイクには、あの男に殺され掛けているはずの黒樹夜衣斗が乗っていた。
「てめぇ、なんでここにいる。つうか、三体目か?どんだけ化け物だよ。てめぇは!」
頂喜武蔵はそう叫ぶと同時に、空を飛び回っていたソードサーバント達を強襲させ、自身は刀を取り出し、ウィングブースターも使って斬りかかった。
バイクは前進しか出来ない。
だから、夜衣斗に避ける手段はないはずだった。
だが、頂喜武蔵は失念していた。
自身がそのバイクを武霊だと認識していたはずなのにだ。
振り抜いた刀、強襲したソードサーバント達。
そのどれもが夜衣斗にも、夜衣斗が乗っていたバイクにも当たらなかった。
何故なら、夜衣斗の乗ってるバイクが、無音のまま『後進』したからだ。