第一章『武霊のある町』11
★夜衣斗★
なんなんだあれは!
俺はオウキに抱き抱えられて逃げていた。
美羽さんの逃げてと言う叫びを聞いた直後、スライム武霊が変化した。いや、正確には『分裂』した。
次々と分裂したスライム武霊の分裂体は、瞬く間に形が『某戦隊ヒーロー』や『某ロボットアニメのロボット』などの『どこかで見た事がある姿形』になり、一斉に襲い掛かってきた。
反射的に、
「セレクト。ジャミングスモーク」
と命令し、オウキの肩・腕・腰を開かせ、そこから白い煙(目くらましと通信などを阻害する煙)を出して逃げた。
とにかく、このまま逃げていても……正確に数えたわけじゃないが……十数体は出ていた。そんなにいれば、捕まる可能性が高い。……それに、今は……幸いな事に……人がいないが、このまま逃げ続ければ、誰かを巻き込みかねない……何にせよ。
「セレクト。ステルスサーバント」
隠れるのが、とりあえずの最善策だろう。
オウキの肩から半透明の小型円盤が現れ、オウキの頭上に移動し、装甲を開く。
それと共に、多分だが、周囲の光を操るナノマシンが散布され、オウキと俺の姿を透明にする。
走っていると、足音でばれる可能性があるな……よし。
「オウキ。あの空地に隠れよう」
俺は視界に入った空き地を指差し……って、今は見えなくなってるな。なんだか不思議な感じだ。まあ、それでもオウキは理解し、空地に入った。
何かを言う前に、オウキは俺の意思を汲み取り、俺を降ろした。
……それにしても、本当に『喋らない』な……。
俺は少し期待していた事なだけに、思わず溜め息を吐いてしまった。
美羽さん曰く、武霊は鳴いたり、唸ったりは出来るけど、『喋る事は出来ない』らしい。そう言う器官や機能を持った武霊でもだ。理由は当然、分かってない。……武霊自身が喋る事を拒否しているのだろうか?まあ、十年間大人達が調べて分からない事を、俺が考えて分かるわけないよな。
まあ、何にせよ。今はそんな事を考えている場合じゃないな。
俺がそう思った時、不意に携帯が震えた。
しかも、タイミングが悪い事に、空地の前に『赤い某変身ライダー』が現れ、こちらを見た。
変身したスライム分裂体は、形は変わっても『全身赤一色』だったから……間違いなくこの某変身ライダーもあのスライム分裂体だろう。と言う事は、見付かると……まずい。
俺は慌てて携帯を取り出し、電源を切る。
スライム分裂体は、一瞬の間を置いて、どこかへ走り去った。
ほっと一息付く間もなく、何故か再び携帯が震える。
切り損ねたか?
俺は眉を顰め、再び電源を切ると、今度は俺が見ている前で、『勝手に』電源が入り、震え出した。
……どう言う事だ?携帯って、こう言う事出来たっけ?
俺が疑問と得体のしれない不安感に硬直している間も、携帯は震え続けている。
相手はどうしても俺と話したいらしい。
着信相手を確認すると、どう言うわけか、画面には何も映って無かった。
分けが分からないが、このまま震えさせ続ける訳にもいかないよな……何にせよ。携帯のコントロールが向こうにある以上、これ以上待つと着うたとか流される可能性もある。流石に今の状況でそれは困るので、
俺は意を決して、携帯に出た。
「初めまして、黒樹夜衣斗」
携帯から聞こえてきた声は、全く効き覚えのない、どこか違和感のある男の声だった。