第三章『奪われたオウキ』59
★飛矢折★
いたぶる様なサーバント達の攻撃を何とか避けていたあたしだけど、徐々に徐々に攻撃の速度と数が上がってきた為、かすり始めた。
腕や頬に傷が付き、制服が千切れてぼろぼろになる。
身体を伝う雨に血が混じり、制服や地面に血を滲ませていた。
どうすればいいか必死に考えを巡らせているけど、あたしにいい考えなんて思い浮かぶはずもなく、その間にも、流れた血や赤井さんをなるべく揺らさない様にサーバントの攻撃を避けているせいで、徐々に徐々に呼吸が乱れ出す。
このままじゃ………もたない。
そう思った時、サーバントとは違う気配が、上空から降ってくるのを感じ、立ち止まって後ろに飛び退いた。
瞬間、直前までいた場所に、半透明のオウキが落ちてきて、地面に付く直前でウィングブースターを広げ止まる。
半透明のオウキの中に、見た事がない大男が入ってた。
こいつが頂喜武蔵!?
突然現れた頂喜武蔵に警戒した視線を向けると、頂喜武蔵は残忍な笑みを浮かべ、
「飽きた。死ね」
そう言って、腕の中から拳銃を取り出し、あたしに向けた。
★???★
「夜衣斗君!」
血を吐き出し、うまく呼吸が出来なくなった夜衣斗を見たさゆりは悲鳴に近い声で夜衣斗の名を呼んだ。
その声に自分の偽者二体と戦っていた美魅は、強引に二体を通り抜けようとするが、同じ攻撃手段を取る偽者の攻撃は防ぐのに手一杯で、抜け出すに抜けられなかった。
戦いの合間合間に見えるトンネルの中で倒れている夜衣斗は、口から血を流している。
敵武霊使いの攻撃は、流れる血を見ても手を緩めるどころか、まるで血を見て興奮したかの様に激しくなり、このままでは夜衣斗は………
(これじゃ何の契約した意味がないじゃない!)
自分の力の無さに憤りと焦りを美魅が覚えた時、どこからともなく声が聞こえ始めた。
「あなたは忘れているわ」
その声に聞き覚えがあった。
夜衣斗の中で出会い、契約の紙を貰ったサヤと名乗る女。
どうやって美魅に語り掛けているのかは分からないが、少なくとも周囲にサヤの姿はない。
(忘れてる!?何を!?)
偽者の剣の爪を防ぎながら、心の中で絶叫した。
「あなたの魂は契約により夜衣斗に繋がっている」
(それがどうしたっていうのよ!)
「そして、あなたは何?」
そのサヤの言葉に、美魅ははっとした。
魂が繋がっているから、夜衣斗の中にいるサヤの言葉が自分に届く。
そして、美魅は『心を潜り込む猫』。
心渡りの化け猫・美魅。
瞬間、美魅は夜衣斗の心の中に渡った。