第一章『武霊のある町』10
★夜衣斗★
俺が何かを言う前に、その女は背後から武霊を出した。
その武霊は、人型でもなく、獣型でもなく……そう…しいて言えば……いや、そのまんま『スライム』だった。
ファンタジー物で出てくるあの不形生物。色はまるで血の様に赤く、大きさは人より大きい。
……どうも、武霊は通常、人より大きいのが基本みたいだな……なんにせよ。うねうね動いているスライムを、実物で見るとかなり気持ち悪いな。と言うか、どう言うつもりなんだこの女?
「あは。私の武霊ちゃんに付いている虫ぃ。自分で死ぬのと、苦しんで死ぬの。どっちがぁ、いい?」
不気味な笑顔を浮かべて、物騒な事を言う女。
俺が命令する前に、オウキが俺の前に庇う様に出た。
「あらぁ?ダメよ。私の武霊ちゃん。そんな虫を庇っちゃ」
……どうやら、俺は虫らしい……なんなんだこの女?
そう疑問に思った時、俺の耳に切羽詰まった美羽さんの声が入った。
「夜衣斗さん逃げてぇーー!!」
★美羽★
高神麗華を見た時、私は背筋が寒くなるのを感じた。
「夜衣斗さん逃げてぇーー!!」
気が付くと反射的にそう叫んでいた。
と同時に、コウリュウが一気に上昇する。
キゾウが突進してきたからだ。
「邪魔!コウリュウ、サンダーブレス!!」
私の命令に、コウリュウは胸のブレス袋に電撃を溜める。
キゾウには誰も乗っていない。
だから、全力で撃ってコウリュウ!
膨らんだ胸に押されながら、そう強く命じた。
再び突進してくるキゾウに、コウリュウのサンダーブレスが撃ち込まれる。
キゾウは避ける間もなく、ブレスが直撃し、凄い音共に吹き飛んだ。
夜衣斗さん!
キゾウが吹き飛ぶのを確認して、私は夜衣斗さんがいた場所を見る。
そこには何故か、白い煙がもうもうと立ち込めていて、夜衣斗さんの無事が確認できない。
でも、私の見ている前で、煙の中から『様々な武霊』が次々と飛び出して、それぞれが違う方向に向かっていったので、夜衣斗さんはうまく逃げてくれた見たい。
高神麗華の武霊は、見た目はスライムで弱そうだけど、いえ、実際に本体は弱いけど、でも、他の武霊にはない『恐ろしい能力』がある。
その能力の為、警察も自警団もうかつに麗華に手を出せなかった。
不意にコウリュウが回避運動に入った。
原因は、キゾウ。
頭部が多少焦げているだけで、それほどダメージを受けている様には見えない。
キゾウとは何度か戦ったことがあるけど、前はこんなに丈夫じゃなかった。
片手間で相手を出来る相手じゃない。
私は奥歯を噛み締め、キゾウとの戦いに集中する事にした。
どうか無事でいて、夜衣斗さん!