第三章『奪われたオウキ』48
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確かに今の美春には攻め手がなく、追い詰められつつあった。
しかし、オウキの装甲には『傷を付ける事』が出来た。
それは即ち、『力を抑えなければ、攻撃が頂喜武蔵まで通る』事を意味している。
だが、力を抑えていない攻撃は、手加減が効かず、まず間違いなく、頂喜武蔵を殺してしまう。
例えどんな状況であろうと、自警団が武霊を使って人を殺さない事。
それは、ある種の民間武装組織である星波町自警団の最大の禁則であり、武霊犯罪の抑止力になっている事だった。
守ると称して人を殺す事を認めれば、それが前例になり、命が軽くなる。
それが今の星波町にとってどれだけ危険な事か………しかし、それ以外に攻め手がない。
だからと言って自警団団長が自ら禁を破れば、その影響は測り知れず、だからと言って、このまま避け続けるのにも限界がある。
誰かが、頂喜武蔵を止めなくてはならない。
だからこそ美春は逡巡した。
その逡巡は僅かな間だったが、その間に一つの変化が起き、美春を驚かせ、戸惑わせる。
唐突にサーバント達がその動きを止め、四方を見出した。
そのあまりの唐突ぶりと無防備な行動に、美春は思わず警戒し、サーバントの群れの中から抜け、間合いを取る。
そして、それにより今までサーバントの群れに塞がれ見えていなかった外の光景を目にする事になった。
何十体ものレベル2の武霊が、鬼走人骸側の武霊のみが、その動きを『止めていた』。
もしかしたら、それも唐突だったのだろう。自警団の武霊達は警戒して攻撃を躊躇っている様だった。
困惑して止まっている武霊達を見ていると、更に困惑させる事が起きる。
鬼走人骸の武霊達が次々と霧散し始め、すぐさま廃工場地帯の近くでレベル2となって現れる。っと言う不可解な行動をし始めたからだ。
その行動の真意を理解出来ず、頂喜武蔵が居る方向を見るが、その姿はサーバントに囲まれて見る事が出来ない。
だが、サーバントの様子から、頂喜武蔵も困惑してる様だった。
訳が分からず再び鬼走人骸側の武霊を見て、美春はある事に気が付き、驚愕する事になる。
再び具現化して現れた鬼走人骸の武霊達は、確かにレベル2の様な巨体だった。
しかし、よく見なくても違う点があった。
それは、『半透明で、その中心に人がいる』と言う事。
そして、それが意味する事は、
「レベル4!」
あまりの驚愕から、美春は驚きを口にしてしまう。
今まで可能性のみ話され、誰もやった事がない段階。
それがレベル4。
つまり、武霊を身に纏ったままレベル2の様に巨大化させる具現化段階。
出来るのではと考えられていたが、その予想されるあまりの意志力の消費の多さに、実現不可能だと言われたその段階を、何十体も目にし、流石の美春も驚きで動きを止めてしまっていた。
それが、大きな隙になっている事に気付いた時には、目の前に頂喜武蔵が迫っており、その片手に首を掴まれ、抵抗する間もなく地面に叩きつけられてしまう。
あまりの衝撃に美春の意識は一瞬飛び、コロ丸の具現化が消えてしまい。
気付いた時には、レベル3を止めた頂喜武蔵に踏み付けられていた。
「無様だな!え!おい!」
そう言って、頂喜武蔵は高笑いを上げた。