第三章『奪われたオウキ』39
★夜衣斗★
「おかしいだわね………見張りがいないだわよ」
扉に頭だけ透過させて部屋の外の様子を見た美魅の報告に、俺と西島さんは顔を見合わせた。
ちなみに手足に掛けられていた手錠は、美魅の剣の爪で切り外して貰っている。
美魅曰く、普通の美魅には鉄を切れるほどの力はなかったらしく、面白そうに外れた手錠を無意味にバラバラにしていた。
それにしても……見張りがいない?………頂喜武蔵は美魅を武霊と勘違いしていたはず。
なのに見張りがいない?…………千里眼系の能力が使える武霊に見張らせているんだろうか?………それにしては…・…・
念の為、扉と同様に壁や床・天井(棚とかがあったのでそこに乗って)に頭を透過させて周りの部屋の様子を確認させるが、やはり見張りらしきものがいないし、ない。
………ふとある事を思い出した。
それは、俺が気絶する直前、背後から来た何かを後部カメラで確認して避けた事。
よくよく思い出してみると、それは大きな鏡だった。
………もしかして、
「………西島さん。もしかして、西島さんがいた部屋に姿鏡とかありませんでした?」
俺のその問いに、西島さんはちょっと驚いた様な顔をして、頷いた。
「確かにあったけど………それがどうしたの?」
「………いえ」
俺は眉をひそめつつ、部屋にある鏡の破片を見た。
来塚博の武霊シャドウリベンジャーの能力に、影から影へ移動する能力があった。
その能力によりシャドウリベンジャーを認識せずに影の中に引きずり込まれると、引きずり込まれた人間は意識を失う………らしい。まあ、認識していても、影の世界に空気があるかどうか疑問だから、それでも気絶しそうだが………とにかく、そういう能力が可能なら、鏡を媒体にした移動能力とかも可能………っと言うより、自然と言える。
何故なら、武霊の多くは、『子供の頃に見た何か』である事が多く、そして、俺の記憶の中には、鏡を媒介するキャラがいくつかある。
………っと言う事は……………。
もう一度鏡を見るが、見た目上は普通の鏡だ。だが、この可能性は無視出来ない。
………まあ、だからと言って、このまま逃げないのは…………ありえないな。
俺は深いため息を吐き、覚悟を決めた。
オウキがない状態でどこまで出来るか分からないが、時間が経てば経つほど………そのオウキが町の人達に迷惑をかける可能性が高まる。
それだけは………何とかしないといけない。
「………逃げよう美魅」
俺の言葉に美魅は頷き、人差し指の剣の爪を出し、ドアと壁の間に差し込んでドアに掛けられた鍵やら鎖やらを切断した。
「それで、どこに逃げるだわよ?」
その美魅の問いに、俺は少し考えて、
「………まずは可能な限りひよりさんを探し………町の外へ行こう」
「町の外?」
俺の言葉に美魅は小首を傾げた。