第三章『奪われたオウキ』36
★飛矢折★
入口付近に三人………
建物の壁に張り付きながら気配を探るあたしに、隣の高木先生が気配なくあたしの耳元に顔を近付けてきたので………ちょっと戦慄を覚えたけど、何とか平静を装いつつ(それすら見抜かれている可能性が高いけど………)、高木先生の言葉に耳を傾けた。
「三人の内、一人は何かを、音からして刃物ね。を手の中で弄んでいるわ。気配からして、刃物を持った子以外は武霊使いかもしれないわね」
………確かに、三人の内の二人は、妙な気配を感じる………かな?
「じゃあ、丁度二人だし、私は右を、飛矢折さんは左の子をお願い出来る?」
「構いませんけど………」
高木先生って……本当に……戦えるのかな?
そんな疑念を口にするより早く、高木先生は小石を持ち、投げた。
な!もうちょっと心の準備って言うか、合図してください!
っと心の中で抗議しつつ、高木先生に合わせて動く。
高木先生は投げた小石が三人の男達を飛び越して、向かい側に音を出すと同時に、気配を消して三人に接近。
音に気を取られて後ろを向いている三人の内の右側の男の頭を杖で小突いた。
その瞬間、小突かれた男はそれで脳震盪でも起こしたのか、崩れ落ちる様に倒れる。
あたしが掌ていで左の男の顎を打ち抜いて気絶させるより少ない力で気絶させている。
見えないのにどうやってそんな事をしたのかは謎だけど、これでお祖父ちゃんの言っていたが……本当だったって事だよね………世の中広いな…………まあ、今はそんな事より、
残された男を見ると、男は震え、手に持っていたナイフをあたしに………本当にナイフ持ってる…………向けた。
あたしはため息一つ吐き、瞬時に間合いを詰めて、ナイフを持つ手の親指を握り、捻る。
男は激痛にナイフを放し、地面に落としたので、そのまま腕を背中に回し、地面に組み伏せた。
………本当に武霊を持ってないみたい………うん。この気配、覚えておこう。
そんな事を思っていると、高木先生が、地面に組み伏せている男の頭近くに杖を……思いっきり振りおろした。
僅かに頭部にかすらせていたので、
「大人しく黒樹夜衣斗の場所に案内する?」
っと言う高木先生の妙に優しい問い掛けに、男は何度も頷いた。
………………………。
「なあに?飛矢折さん?」
「な、何でもないです」
「そう?じゃあ、黒樹君を助けに行く前に、入口の前に気絶している子達を運びましょうか」
「?。何でです」
「時間稼ぎになるでしょ?」
「時間稼ぎ?」
「ほら、この二人が入口の前に倒れているのを目撃したら、この子達の仲間はどう思うと思う?」
「………警戒しますね」
「そう言う事。後は逃げるだけなんだから、向こうには警戒するだけして貰いましょう」
そう言って、高木先生は気絶している男の一人を入口に引きずって運び出したので、近くにあったひもを使って組み伏している男の両腕を縛り、残りの男を入口に運んだ。
そして、残った男の案内で黒樹君が閉じ込められていると言う場所に行くと、そこには……………誰もいなかった!?
「これは自力で脱出したって事かしら?それとも………」
高木先生が男に杖を向けると、首を横に振って本気で怯えて、困惑していたので、嘘は吐いていないみたいだけど………自力で脱出したにしても………オウキがないのにどうやって?………それとも、別の『何か』があったの?
あたしは空っぽの部屋に、言い知れぬ不安を感じた。