第三章『奪われたオウキ』35
★美羽★
今日は今月に入って珍しく晴れの一日だった。
だけど、天気予報でも夕方には雨が降り、明日まで土砂降りになるって予報されていた通り、日が沈むに連れ空は曇り始め、ポタポタと空から雨粒が降ってきた。
さっき空に上がった映画とかで見る閃光弾の光は、まだ空にある。
頂喜武蔵対策として私は前に出ていないけど、隣で一緒に待機している美春さんから入ってくる情報によると、閃光弾が放たれると同時に、鬼走人骸達は一斉に武霊を残して撤退を始めた………らしい。
その事に眉をひそめる美春さん。
……そう言えば、いつもの鬼走人骸なら、暴れるだけ暴れて、一人か二人を囮にして逃げていた様な………
そう思っていると、天候が悪化し続ける空に、無数の小型円盤が現れ始めた。
ぞわっと背筋に寒気が走る。
「美春さん…………」
私の呼び掛けに、美春さんは無言でコロ丸を具現化させた。
それとほぼ同時に、円盤達の中にオウキが現れる。
このタイミングで現れたオウキ。
どう見ても………最悪の状況…………だけど、これで夜衣斗さんの無事は確認出来た。後は………
「コウリュウ!」
私はコウリュウを具現化させて、背中に乗った。
「作戦通り、私は遠距離から支援します」
そう言って、私はコウリュウを飛び立たせた。
こっちは何とかするから、しっかりやってよね東山さん!
★???★
「はくっしょん!」
そのあまりの緊張感のない上に、救出作戦中だと言うのに遠慮なくしたくしゃみに、この場にいる全員の白い目線が東山賢治に集まった。
「ん〜誰か噂してるかもねぇ〜」
などと言って集まる視線を気にせず、さっさと先へと進む賢治。
警察の武霊使いの人数は他二つの組織に比べて断然少ない上に、先程の襲撃でそのほとんどが意志力を消耗してしまっていた。
その為、今、この場にいるのは賢治も含めて、五人。
これだけの人数しか警察側では用意出来ず、故に救出担当になったわけだが………
「立場的には普通は逆なんだけどねぇ〜」
っと独り言を言う賢治を咎める者はこの場にはいなかった。
賢治と違って口には出さないが、この場にいる全員が思っている事なのだろう。
廃工場の建物の間々で見える武霊達の戦いは徐々に激しさを増している。
その光景に、悔しさと憤りを感じない警官は、この場にはいない。
その事に気付いた賢治は、密かに笑みを浮かべていた。
(少なくとも、ここには警察がある)
そう思い、そして、星波町に来る前の事を思い出し、苦笑した。
「まあ、今は、そんな事より、人命優先。作戦実行っと」
そう言って嫌な記憶を振り払った時、建物の間から見える戦場に、空を飛ぶオウキと無数のサーバントが現れるのが見えた。
(やっぱり間に合わなかったか………だが、これで黒樹君の無事は確認出来たわけだ)
最悪な状況だが、心の中ではほっとした時、目的の鬼走人骸のたまり場とされてる場所の近くまで来て、眉を顰めた。
何故なら、そのたまり場の前に、倒れている鬼走人骸のメンバーがいたからだ。
「………どういう事なんだろうね?これは?」
思わず放った賢治の問い掛けに、他四人はそれぞれ困惑の表情を浮かべるしかなかった。