第三章『奪われたオウキ』33
★飛矢折★
混合救出部隊と鬼走人骸の武霊達が廃工場近隣でぶつかり合う。
互いに様子見なのか、それとも鬼走人骸側がほぼ全員レベル1までしか到達していないのか、具現化レベル1同士での戦いになっている。
それでも、廃工場近隣は危険地帯である事は変わりなくて………そんな中を、あたしと高木先生は気配を消しながら進んでいた。
警察署の前で高木先生とあった後、武装風紀の『建前上の』顧問として来ていたと言う高木先生は、あたしの事情を聞くや否や何故か、
「じゃあ、こっちはこっちで、黒樹君を助けに行きましょうか?」
っと言って、とくに躊躇することなく廃工場に向かう高木先生を止めるに止められず………こんな所まで来てしまった。
確か高木先生も武霊使いじゃなかったはずだから、危険なのでは?っと思ってその事を聞くと、
「大丈夫。見付からなければいいのよ」
笑顔でそんな事を言われた。
…………確かに、ここまで来るのに誰一人として遭ってない。
前々から思っていたけど、高木先生は普通の人。うんうん。武術家として鍛えられたあたしより気配に対して鋭い………それどころか、警察署の前であたしに気付かれる事なく接近した所からすると………何らかの武術を身に付けていて……もしかしたら……あたしより強い可能性だってある。
前にお祖父ちゃんが、「障害者だからと言って弱いとは限らない。逆に障害者だからこその強みを生かして健常者より強くなる者もいる」って言ってたのを思い出した。
一定の距離を歩いては、止まって少しだけ持っている杖を突いて再び歩き出す高木先生。
時よりあたしに手で止まれなどの合図などをすると、決まって近くを通り過ぎる人の気配を感じた。
見えていないのに障害物の位置を正確に把握しているかの如く、一切何処にもぶつからず、その歩みに迷いもない。
それどころか、あたしより何倍も早くに人の気配とその動きを把握する。
………もしかして、杖で発した音で周囲を認識しているとか?………蝙蝠じゃあるまし………まさかね………いえ、出来るかしら?何にせよ…………
五感のどこかが失われればその他の器官が、それを補う為に強化されるみたいな話を聞いた事があるけど………それにしては、高木先生の能力は異常に感じられた。
………どれだけの修業をしたらこんなになれるんだろう………。
疑問と憧れに近い視線を高木先生に向けると、高木先生は不意に立ち止まった。
既に廃工場内に入っていて………高木先生の進行方向を見ると落書きなど人為的により荒れている場所がある。
「中に何人かいるみたいだから、あそこじゃないかしら、黒樹君達が閉じ込められいるのは」
そう小声で言う高木先生。
………確かに人の気配はするけど………。
「どうするんです?」
「どうするって?」
あたしの問いに、高木先生は首を傾げた。
「もし、中にいるのが武霊使いだったら、あたし達だけで乗り込むのは、危険だと思うんですけど………」
「それはないと思うわよ。だって、自警団や武装風紀を相手に予備戦力を残せる様な状況じゃないでしょ?」
「それはそうですが……」
「仮に居たとしても、武霊を具現化される前に武霊使いを気絶させちゃえばいいのよ」
そう言った高木先生は微笑んで、躊躇なく歩き出した。
ここまで来ておいて、先生の行動を止めるのは……今更遅過ぎる気がしたあたしは、覚悟を決めた。
待っててね黒樹君。今、助けに行くから。