第三章『奪われたオウキ』27
★美羽★
「夜衣斗さんがさらわれた!?」
東山さんのその言葉に、私は信じられなくて、思わず大声を上げてしまった。
その大声に警察署の前で東山さんと同様に治療中の人達の視線がこっちに集まる。
………しまったかも……こういう情報は隠しとくべきなんだよね………ああ、東山さんと隣の巴先輩の視線が痛い。
夜衣斗さんの教室で巴先輩と合流した後、私達は夜衣斗さんを探して星波学園をうろうろしていた。
そうしている内に、爆発音が聞こえて……もしかしたら、また夜衣斗さんが厄介事に巻き込まれているんじゃないかと思って、煙の上がっている所にコウリュウで急いで向かうと………警察署でちょうど鬼走人骸達が見覚えのない扉に入って消えている所で………夜衣斗さんの姿はどこにもなかった。戸惑いながら警察署の前に降りると、警察署の中から所々焦げた東山さんが現れたので、話を聞くと………夜衣斗さんは、また新たなサーバントを出して警察署を燃やしていた炎の狼を倒したんだけど、その直後に炎のブレスを受けて、それをオウキが防ぐ隙に、どこからか大きな鏡が投げられて、夜衣斗さんがそれを避けた瞬間、その姿が消えてしまったらしくて………同時にサーバントもオウキも霧散し消えてしまった事からすると、何らかの武霊能力で気絶させられたんだろうけど………何でも、警察署に保護していた西島さゆりさんって人の部屋にも大きな鏡があって、同じ様に消えたらしいから………そこから考えると鬼走人骸に『鏡を使った瞬間移動が出来る武霊使い』が加わったって事だよね?
「………あの夜衣斗さんがこんなに簡単にさらわれるなんて………」
思わずそうつぶやくと、それを聞いた巴先輩が首を横に振った。
「黒樹君は強力な武霊を持ってるだけの普通の人よ。だから、とっさの事には弱い」
「そうかもしれませんけど………」
……なんだか納得出来ない。っと言うより、連想し難い………どうも巴先輩と私とでは夜衣斗さんに抱いているイメージが違う感じがする。
まあ、でも、今はそんな事より……………
「大丈夫。わざわざさらったって事は、少なくとも、直ぐに命に関わるような事はされないはずだから………」
そう巴先輩は自分に言い聞かせる様に言った。
その拳は強く握られていて………
「そうだねぇ〜。確かに、命を取られる事はないだろうけどぉ〜。もっと最悪な事になる可能性があるよねぇ〜」
東山さんのその言葉を、私は直ぐに理解出来なかった。
でも、
「忘れた美羽ちゃん?頂喜武蔵の武霊の能力を」
「あ!」
頂喜武蔵の武霊の能力。それは、無理矢理でも貸すと相手に言わせれば、例えそれが武霊でも借りる事が出来る能力で………っと言う事は、オウキを狙って?そんな!オウキがあんな男の手に渡ったら………
「あくまで借りる能力だから、黒樹君の命『だけ』は平気だろうけどねぇ〜………仮に、もし『そう』なったら最悪だよねぇ〜………あのオウキが敵になる。しかも、レベル3まで到達した頂喜武蔵が操る武霊としてね」
レベル3のオウキ!?
レベル1で高神麗華の武霊軍団を圧倒するほどの力があるのに………レベル3って………
「………まあ、こっちも急いで救出の為の準備をしているから………それまで黒樹君が耐えてくれればいいんだけどねぇ〜」