第一章『武霊のある町』7
★美羽★
普通、武霊使いになったばかりの人は、武霊を具現化させるのに手間取ったり、上手く出来なかったりする。
現に私も、最初の頃はなかなか上手くコウリュウを具現化出来なくって、武霊使い登録にかなり手間取った。
……でも、夜衣斗さんは特に苦も無く、まるで何年も武霊使いをしていた人の様に、あっさりとオウキを具現化させた。
それに周囲が驚いている事に、夜衣斗さんは気付いていないようだけど……これって結構すごい事なんだけどなぁ……。
そもそも、夜衣斗さんは色々と武霊使いになる為の条件とか過程とかを無視したりしている。
本当は、武霊使いになる為には、
一、星波町に一ヶ月以上住むか通っている。
二、明確な心に刻まれた何かのイメージを持っている。
三、自分の武霊を正しく認識する。
四、自身が武霊を受け入れる。
五、自分の武霊に拒絶されない。
と言う条件と過程が必要で、そのどれが欠けても、武霊使いにはなれないって言われてた。
だけど……夜衣斗さんは、最初の条件を無視している上に、結構時間が掛る三とか、四とかも……あっさりクリアしているし……。
そう考えると、本当に運命の人なのかも、って思える。
私にとっても、星波町にとっても。
……夜衣斗さんは、何か……『特別な存在』なのかな?
★夜衣斗★
武霊使い登録の時、オウキの具現化は拍子抜けするほど簡単に出来た。
オウキの武装を新たに出すみたいに、オウキの姿を明確にかつ強くイメージして、名前を呼んだ。
それだけで、軽い意識の薄れと共に、オウキは俺の背後から現れ、具現化した。
その時、何故か、役場にいた人達のざわつきが少し変化した気がした様な……。
昨日、派手に空中線をしてたから、オウキが有名になってるかも。と、事前に美羽さんに言われてたので、それでざわついたのかと思ったが……どうやら、違うらしい。
役所から出てしばらくしてからしてくれた美羽さんの説明によると、どうやら俺はかなりイレギュラーな経緯で武霊使いになったらしい。
……どうも、話によると……普通の武霊使いが、自分の武霊を初めて認識するのは、大体が『自分の命が危険にさらされ、寄生者を守る為に勝手に具現化する時』……らしい。
命の危機にさらされたのは確かだが……話の感じからして、その時に俺の様に『誰か』が接触してくる事は普通はないんだろう。
だとすると、俺のイレギュラーの原因は、あのサヤと名乗った……なんだろうな?あの人、いや、人じゃないのは、多分、間違いないだろうが……幽霊じゃないとかも言ってたしな………とにかく、サヤが原因なのは間違いない。
……それにしても……運命が変えられたって言っていた場所は、間違いなく星波町以外の場所だった。……だとすると、武霊は星波町限定の精神寄生体なのだから、俺はその場所で、『武霊以外の超常的な何か』をされたって事なんだろうか?……まあ、サヤの言葉を額面通り受け取ればの話だが……。
「っで、ここが星波学園に続く学園大橋です……って、聞いてます?夜衣斗さん?」
役所での登録を終えた後、美羽さんは星波町のあらゆる所を案内してくれている。デパートやら、商店街やら、公園やら、隕石博物館やら、図書館やら、スポーツセンターやら、色々だ。
正直、普段あまり外出しない俺は……かなり疲れていた。
……考えてみれば、昨日、あんな事があったと言うのに、呑気に町の案内を受けている、している場合なんだろうか?……まあ、美羽さんにしてみれば、あれは日常なんだろうが……こんな町で、俺はやっていけるんだろうか?
「お〜い。夜衣斗さん」
気が付くと、俺の目の前に美羽さんの顔があった。