第三章『奪われたオウキ』17
★夜衣斗★
………さて、何となく来てしまったが…………どうするかな?
楠木久思の部屋の前で、俺は苦笑した。
ちなみに、二人っきりの方が話しやすいでしょう。っと言って春咲はこの場にいない。
(何か考えがあって来たんじゃないんだわよ?)
全然。……まあ、多少は気になる事があるが………普通に考えて、それを答えてくるとは思えないしな………。
(気になる事ってなんだわよ?)
来塚博は黙秘しているらしいから詳細は分からないが、多分、来塚は、前に俺が言った通り、強制的に武霊使いにする薬物を手に入れていたんだと思う。そして、その入手場所は、武霊に関する事なのだから、星波町内以外ありえない。っで、その場合、来塚と常に一緒に居たであろう楠木も、その薬物を持っている可能性が高い。その証拠と言うに少々根拠が弱いが、来塚が事件を起こした翌週に楠木が不登校になった。
(どうしてそれが薬物を持ってる証拠になるだわよ?)
強制的に武霊使いを生み出す薬物だ。それの開発には、『それなりの人体実験』が必要になると思う。武霊は人の精神に直結している存在の様だから、その実験で………まあ、表沙汰に出来ない事は間違いなく起きているだろうし、そうじゃなくても開発者の意図はその薬物の正体を隠す方向に向いている。じゃなきゃ、そんな画期的な薬物、とっくに公表しているだろうしな。
(つまり、脅されているって事だわね)
そう言う事。だから、楠木は外が怖くなり、引きこもった………っで、それが長引いているのは、手に入れた薬物は使ってないからだと思う。
(どうして使ってないって思うだわよ?)
………武霊は、それが良い・悪い方向の関係無しに、武霊使いに自信を与える。来塚や
(夜衣斗みたいにだわね?)
………まあ……そうかもな………いや………俺はどうなんだろう?自分の事だからな…………まあ、とにかく、自身を手に入れた人間が引きこもるとは思えない。
(でも、だったら、どうして使わないだわね?)
……怖いんじゃないか?武霊が。
(武霊が怖い?)
武霊が発生して十年経った今でも、正体が一切分かってないだろ?そんな得体の知れない存在を、自分の中に入れるなんて………怖いだろうが………。
(夜衣斗も怖いだわよ?)
…………怖いよ………正直に言えば、俺は完全に自分の武霊を信頼しているわけじゃない。常に懐疑的に使ってるって言ってもいい。
(それでよくあれだけの事が出来るだわね………)
それが不思議なんだよ………武霊使いになれる条件に、『自分の武霊を受け入れる』ってあったから………その内、俺の命令を聞かなくなるって思ってたんだが……………手に入れた経路といい……やっぱり、俺の武霊は……特殊なんだろうか?………ん〜美魅は俺の中にいるから、何か分からないか?
(さあ?武霊使いの中に入ったのは夜衣斗が初めてだわね。だから、違いなんて分からないだわよ?)
……まあ、それじゃ仕方がないか………じゃあ、サヤは?
(相変わらず寝ているだわよ)
寝てるねっていつまで寝てるんだ。
(さあ?)
……………そう言えば、心の中の公園に、サヤ以外に女の子が二人いただろ?
その問いに、美魅が何かを越えようとした時、
「黒樹君……まだ、そこにいる?」
っとドアの向こうからようやく楠木の声が発せられた。