第三章『奪われたオウキ』15
★飛矢折★
「そう黒樹君はまた厄介事に巻き込まれているのね」
その朝日部長の言葉に、あたしは溜め息を吐いた。
「そうなんですよ………先月末から特にこれと言って何もなかったんですけど………」
「心配?」
そう問われ……隠してもしょうがないので、
「………はい」
と頷いた瞬間、朝日部長は瞬時に間合いを詰め、あたしが防御するより早く掌ていが放たれ、顎下で寸止めされた。
「まだまだねぇ」
「………組手中に話をするのはやめません?」
「これも修行よ」
そう朝日部長は微笑んで、掌ていを顎下から離した。
「っで?どうするの?」
「どうするも何も、手伝うつもりです。ですから、しばらく部活には」
「別にいいわよ。元々あなたはここで修行する必要性のない実力者だから………まあ、私の組手相手がいなくなるのはちょっと困るけどね」
「すいません」
「いいのよ。っで、どう言うつもりで手伝うの?」
?
「だから、クラスメイトとして?友達として?それとも………好きな相手として?」
っな!
「直ぐに顔に出る。見た目に反して、可愛いわね巴は、でも、そんな素直じゃ武術家としてどうなのかしらね?」
「大きなお世話です!」
★夜衣斗★
放課後、三島さんの依頼通り監視の為のスカウトサーバントを大量に飛ばしつつ、俺は春咲さんの案内で楠木久思の家へと向かっていた。
………それにしても、今時珍しい人だよな………春咲さんって………。
前を行く春咲さんの後頭部を見ながら、俺は感心とも、呆れとも取れる感情を抱いていた。
引きこもっているクラスメイトの所に、わざわざ心配して家へに行ってるなんて………少なくとも、俺の周りにはいなかった。だから、そう言うのは、漫画とかだけの存在だと思っていたが………何だかね。
何だか複数の意味で溜め息が出た。
それが聞えたのか、春咲さんは少し振り返り、
「ごめんね。忙しい中付き合わせちゃって」
そう言わせてしまった。
俺はとりあえず首を横に振る。
「さっきも言ったけど、楠木君は黒樹君に会いたいみたいなの。だから、もしかしたら、黒樹君なら楠木君を部屋から出せるかもって思って…………本当にごめんね。うまくいっても、いかなくても、なんか奢るから」
そう言う春咲さんに、何を言ったらいいか迷っている内に、楠木の自宅があるマンションの前に到着してしまった。
………美羽さんとかで多少は慣れたと思ったけれど………やっぱり女性は苦手だな………はぁ………。