第三章『奪われたオウキ』9
★夜衣斗★
夕食中、美羽さんが妙に俺の事を見ていた事に、俺は自分の部屋の中で溜め息を吐いていた。
………夕食中の会話の流れからすると…………俺が鬼走人骸を何とかするんじゃないかとか………考えていそうな感じ経った。
いや、しないからね。そんな危険な事………。
(とか思いながら、ひよりちゃんを助けたいって思ってるだわよ。夜衣斗は)
美魅の突っ込みに、俺は深い溜め息を吐いた。
………まあ、そりゃ、助けたいさ。そう思ってるのも事実だが…………巻き込まれるんじゃなくって、自ら巻き込まれに行くのは…………流石に……そこまでの勇気は……ないな………。
(でも、もう十分巻き込まれるだわよ?)
………確かにそんな感じはしないではないが………………仮に俺が助けに行ったとして………どうしろと?
(どう言う意味だわね?)
どこまでしろって事さ。ああ言う連中は、自分の快楽の為なら………何でもやる。下手に………例えばひよりさんを連中にばれない様に救出するとする。そうなると、連中は必ず報復、もしくはまたひよりさんを捕えようとするだろうし、それ以上の事だって間違いなくする………それに、もし、ひよりさんがあの忘却剤に依存していた場合は………自ら奴らに接触する可能性だってある。だから、ひよりさんを助けるって事は、彼らを完膚なきまでに叩きのめさなくちゃいけないって事になる。
(すればいいと思うだわよ?今の夜衣斗にはその力があるだわ)
………それが問題なんだよ。
(何がだわよ?)
俺はああ言う奴らが大っ嫌いだ…………だから、自制がどこまで聞くか………下手すれば、殺してしまいかねない……っと思う。
(………それは問題だわね………)
………だから、正直、怖くて不安なんだ…………それに、そもそも、完膚なきまでに叩きのめすって言っても………どこまで叩きのめせばいいか………暴力で叩きのめしても、それは連中にとって日常茶飯事だろうし、直ぐに元に戻るのは間違いない。じゃあ、それ以上の事をするとなると………例えば、二度と悪事を働きたくないぐらいに拷問するとか………
(拷問って………)
……痛みの伴った恐怖は、なかなか忘れられないものだから、それなら連中にだって有効だと思う………だから、やるんだったらそれくらいしないと………だけど、それには問題がある。
(忘却現象だわね?)
そう言う事………まあ、でも、俺自身が拷問をすれば忘却現象は起こらないだろうが………そんな事を俺が出来るか………もしくは殺さないでいられるか…………正直、全然分からない………分かりたくもないが………。
(………じゃあ、結局、夜衣斗はどうしたいんだわね?)
………助けたいし、どうもしたくない。
(矛盾してるだわね)
……………俺はいつだって矛盾してるさ…………いや、優柔不断って言った方がいいか………自分で動けず……チャンスも切っ掛けも、何もかも得る事が出来ず、失ってしまう。
(じゃあ、今から変わればいいだわよ)
………変わろうと思って変われたら…………俺は星波町に来ていないよ………。
そう思って苦笑した時、携帯電話にメールが入った。
見て見ると…………最後の敵からのメールだった。