第三章『奪われたオウキ』7
★???★
廃工場の最も町の外に近い場所に、彼ら・鬼走人骸のアジトはあった。
元々彼らは星波町近隣一帯を活動範囲とする只の暴走族だった。
だが、現リーダーの頂嬉武蔵がグループの中に入ってから、その凶悪性は増し、暴走行為より、犯罪行為が目立つ様になった。
殺傷・拉致・監禁・強盗・脅迫などの直接的な犯罪は勿論、最近では『入手経路不明の』違法薬物売買にまで手を出すようになり、警察のみならず、本業の犯罪組織にまで目を付けられる様にまでなっている。
そんな状況になってもなお、彼らが潰されずに済んでいるのは、彼らが自分達がどんな状況・立場・環境にいるかを理解し、それを最大限に利用しているからに他ならない。
まず、彼らは自分達が未成年だと言う事を利用し、様々な庇護下を利用して警察の手から逃れ、それが通用しない相手が現れた場合は、『星波町を利用する』。
星波町なら、例えここで殺人を犯したとしても、武霊を使っての殺人行為なら、忘却現象により、それを町の外で立証するのは困難になる。
それどころか、武霊の能力を最大限利用すれば、それを完全犯罪にする事すら容易い。
だから、彼らは邪魔な勢力などが現れた場合は星波町にその勢力を誘い込み、武霊を使って壊滅させていた。
外にいる本業の犯罪組織達は、彼らがどうやって自分達を壊滅させているか分からず、彼らに恐れに近い感情を抱き、それを理解している鬼走人骸はより増長して本業の領分を侵し続ける。
その為、つい最近まで彼らが『外での抗争』を繰り広げる事になり、黒樹夜衣斗が星波町に来てからずっと星波町に来なくなっていた。
外での抗争は鬼走人骸側の圧倒的な不利で進み、多くのメンバーは『警察に捕まる』か、『行方不明』になり、今いるメンバーは最盛期の十分の一、五十人ほどになっている。
だが、頂嬉武蔵はその事を特に気にしていなかった。
何故なら、違法薬物製造や完全犯罪を犯せるメンバー、つまり、武霊使いは誰一人として欠けていないからだ。
だから、頂嬉武蔵は、今回の事を大きくなり過ぎたグループの人員整理ぐらいにしか考えておらず、大して気にしていなかった。
今は『そんな事』より、『楽しめる事』がある。
外で手に入れたおもちゃに、新しく手に入れた薬物。
そして、黒樹夜衣斗。
頂嬉武蔵は、笑った。
子供の様に、それでいて、誰よりも邪悪に………。
笑う頂嬉武蔵を見ながら、少女は溜め息を吐いた。
その少女は、メガネに、三つ編み、そして、必要な場所以外無い簡素なゴスロリ服を着た小学生ぐらいの女の子で、その手にはアタッシュケースが握られており、
「……何で私がこんな奴の担当になるのかしら………」
っと小声で愚痴を言っていた。