第三章『奪われたオウキ』3
★夜衣斗★
その大男は、まるで格闘選手かと思えるほどがっしりした身体付きをしていて、絶対に関わりたくない様な部類の傷跡を顔中に付けていた。
手にはコンビニのビニール袋があったので、思わず
こんな男でも普通に買い物するのか………
っと偏見ありありな事を考えたが、その偏見は………あながち間違っていなかった。
何故なら、その大男が鎖を外そうとしている……ひよりさんのお母さんを見た瞬間、
何の躊躇も、間もなく、その腹部に蹴りを放ったからだ。
吹き飛び、嫌な倒れ方をして、動かなくなる……ひよりさんのお母さん。
あまりの事に、驚いて固まっている俺を尻目に、大男はズボンのポケットから鍵を取り出し、鎖を外した。
その時、倒れている母親を見ていたひよりさんの瞳に、唐突に輝きが戻り、
「いやぁぁああぁぁあ!お母さん!お母さん!」
っと叫び出し、母親に近付こうとするが、大男は無造作に鎖を引っ張り、ひよりさんを倒した。
そして、倒れているひよりさんの髪の毛を掴み、倒れている母親の方にむりやり顔を向けさせる。
言葉になってない嗚咽とも悲鳴とも聞こえる声を上げ続けるひよりさんに………寒気が走るほどの残忍な笑みを見せ、大男は、武霊を具現化させた!
そこからは、ほとんど条件反射の様に、俺は行動してた。
大男が具現化させた武霊は、ガチャポン機に手足を付けた様なかなりふざけた武霊だったが、その動きはどう見ても………ひよりさんのお母さんを踏み潰そうとしている。
よりひよりさんの声が強くなるが、止める気は一切ない。
大男の武霊がひよりさんのお母さんを踏み潰すより早く、
「オウキ!」
オウキが具現化し、ガチャポン機の武霊を蹴り飛ばす。
そこで初めて俺の存在に気付いたのか、大男が俺を見る。
そして、また寒気が走る残忍な笑みを浮かべ、
「黒樹夜衣斗か」
俺の名を口にした。