第三章『奪われたオウキ』2
★夜衣斗★
その人に会った時、俺は思わず立ち眩みでも起こしたかの様な錯覚を覚えた。
その光景はあまりにも、自分の中の現実からかけ離れていて…………寒気すら覚えたと言ってもいい。
俺の目の前には、雨の中、傘も差さずにぼろぼろのワンピースを着て立っている同じぐらいの年頃の女の子がいる。
その首には、大型犬が付けるような首輪がされており、首輪に繋がっている鎖は、鍵を付けてガードレールに繋げられていた。
そう言うプレイっと言うにはあまりにも、彼女の姿がぼろぼろで、雨でぬれた髪が張り付いているから顔は見えないが、見える手足には、打撲や切り傷が無数にあるのが見えて………。
今、俺がいる場所はいつも漫画雑誌と春子さんのプリンを買っている廃工場近くのコンビニ。
六月に入り、梅雨にも入った事もあって、長雨が続いていたので、傘を差しながらコンビニに行くと、そのコンビニの前で、彼女に遭遇した……………っと言うわけだ。
(最近の日本は奴隷制度でも取り入れたのだわね?)
んなわけあるか!
(だわね)
だが、美魅が思わずそんな事を思いたくなるのは………頷ける光景だった。
正直、時代と国が違い過ぎる。
………とりあえず警察か?いや、コンビニの前で堂々とこう言う事をして、それでもまだ警察が来て無い事からすると、コンビニの店員が通報に身の危険を感じる様な奴が関わってるのは間違いないな………っとなると、少し状況を確認してからじゃないと………何かするには危険過ぎる。
そう結論付けた時、物凄い勢いでコンビニの駐車場に軽自動車が入ってきて止まった。
その車から、一人の女性が転げ落ちるように出て来て、繋がれている女の子に駆け寄った。
「ひより!あなた!ひよりでしょ!」
女性のその呼び掛けに女の子は無反応。
その無反応振りと、ぼろぼろな姿に戸惑い、困惑しつつ、女性は手で女の子の髪を上げ、恐る恐る顔を確認した。
そこに現れた顔は、女性とそっくりな顔で、二人が親子だと簡単に想像出来た。
「やっぱりひよりね!ああ、ひより、どうしてこんな姿に!?」
そう言って娘に抱き付く母親。
だが、娘のひよりは、それでも無反応。
よくよく見れば…………その目は死んでいた。
まるで、何らかの薬物でも使用されているかのように………。
その娘の様子にショックを受けた母親は、
「っと、とにかく、病院に……」
っとつぶやいて、鍵の付いた鎖を素手で外そうとし始めた。
かなり混乱しているのはありありと分かるが………何と言うか………ここ、日本だよな?
(日本だわよ)
俺の思わずの確認に、美魅が答えたその時、コンビニから二メートル以上はありそうな大男が現れた。