間章その四『容疑者黒樹夜衣斗』41
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警察署がギリギリ見える道の曲がり角で、博はうろうろしていた。
放課後、怒りに身を任せて警察署の近くまで来た博だったが、ふっとある事を思い出す。
警察署には、武霊の具現化を抑制する場所があると言う事をだ。
これでは黒樹夜衣斗が武霊を使えない絶好の機会であっても、こっちも武霊も使えないので連れ去る事が出来ない。
派がギチギチとなりそうなほどに強く噛む博。
殺す!殺す!殺す!黒樹夜衣斗を………殺す!
そこに深い考えはない。
だから、このまま何もなければ、あるいはその怒りは別の対象に向けられていたのかもしれない。
そう、何も起きなければ………。
ふっと博が警察署に目を向けると、丁度黒樹夜衣斗が警察署から出てくる所だった。
直ぐに人気がない所に連れ出そうとしたが、ここは人目がある。
だから思い留まり、博は自分の周りに人がいない事を確認すると、シャドウリベンジャーを具現化させた。
そして、自分を抱き抱えさせ、シャドウリベンジャーの能力を使って影の中に飛び込み、影から影へと渡り、黒樹夜衣斗を追跡し始めた。
博は黒樹夜衣斗の武霊には、偽物を作り出す能力があると噂で聞いていた。
だから、もしかしたらあれは偽物なんじゃないかと思ったが………ほどなくして携帯を使い出し、誰かと会話している声が聞える。
博はそれに笑みを浮かべた。
武霊は喋れない………これで、後はこいつが人気のない所に行けば………。
そう博が思った時、まるで心でも読んでいるかの様な丁度いいタイミングで、人気のない道へと夜衣斗は入った。
あまりのタイミングの良さに、思わず警戒したが………考えて見れば、夜衣斗はこの町に来て間もない。だから、人気のない道に迷い込んでも不思議じゃない。
だからこそ、博は自分を夜衣斗から隠れた影から出し、シャドウリベンジャー再び影の中に潜らせた。
夜衣斗の歩く前には、木の影がある。
そこを通り過ぎたそのタイミングで、シャドウリベンジャーに襲わせ、影の中に引き込む。
シャドウリベンジャーの能力では、シャドウリベンジャーを認識していない人間を影の中に引き込むと、その人間は瞬時に気絶してしまう。
それを利用すれば、夜衣斗に武霊を具現化させる暇さえ与えない。
惨めに殺す!
夜衣斗の足が木の影に入る。
無残に殺す!
夜衣斗の身体が木の影に入る。
凄惨に殺す!
夜衣斗の身体が木の影から僅かに出る。
シャドウリベンジャー!
影からシャドウリベンジャーが飛び出し、夜衣斗の身体を掴み、一気に引き摺り込む。
夜衣斗は予想通り武霊も出す暇もなく………博はそれに黒い獰猛な笑みを浮かべた。
だが、次の瞬間、
その笑みは凍り付く。
「………なるほど、そうやってあの不良達を廃工場に連れ去ったわけか」
背後から聞えて来た声は………。
ゆっくりと振り返ると、前髪で目を隠した男。
シャドウリベンジャーに影の中へ連れ込まれたはずの黒樹夜衣斗が………そこにいた。