間章その四『容疑者黒樹夜衣斗』32
★夜衣斗★
………えっと………
「……お二人とも、何でここにいるんです……こんな時間に……そんな大荷物で……」
っと俺がもっともな疑問を口にすると、美羽さんと飛矢折さんは顔を見合わせた。
「一人じゃ寂しいかな?って思って、来ちゃいました」
「あたしも同じ感じかな?」
………美羽さんはある程度予想出来たから……まあ、あまり驚かなかったけど………飛矢折さんまでくるとは思わなかったな………。
じーっと飛矢折さんを見ると、飛矢折さんは顔を赤らめそっぽを向いた。
………あまり深く考えない事にしよう………変な希望は身を滅ぼす………っと………。
「夜衣斗さん。夜衣斗さん。じゃーん。こんなの持ってきちゃいました」
っと言って美羽さんは、持っていた大きな紙袋からゲーム機を取り出した。
………?……なんかあの箱の凹み………見覚えある様な………。
「夜衣斗さんの部屋から持ってきちゃいました」
あ……やっぱり?………ってか、もうちょっと配慮が欲しいな………一応異性の部屋なんですから………。
「ソフトは………一人でするものばかりだったので、春子さんから借りてきましたよ」
………まあ、前の学校では友達いませんでしたかね………っと言うか……
「………テレビは?」
俺の突っ込みに、美羽さんははっとしてうろたえ出した。
……………。
「えっと………借りてきます」
っと言って、脱兎の如く留置場から出て行った。
飛矢折さんと二人きりになり………飛矢折さんはちょっと困った顔になって、
「えっと………お腹空いてる黒樹君?」
っと言って色々なおかずが入ったタッパーを差し出した。
………そう言えば………ちょっとお腹が減ったかな?
「……いただきます」
鉄格子越しにタッパーを受け取り、一口…………!……?………濃!
「それ……あたしが作ったんだけど………口に合うかな?」
っと不安そうな飛矢折さんの問いに俺は、
「おいしいですよ。とても」
反射的にそう答えていた。
「そう?」
俺の答えに、とってもいい顔に笑顔になる飛矢折さんを見て、俺は今日ほど前髪で自分の目を隠しているのに感謝した事はなかった。
きっと今の俺の眉間は、あまりの味の濃さに物凄く深いしわを刻んでいただろうから………いや、男なら普通はこうするだろ?………多分。