間章その四『容疑者黒樹夜衣斗』27
★美羽★
「うぅうう。プリンガー」
「いや、春子さん。なんか新しいロボットぽくなってるから」
プリンが冷蔵庫からなくなってるぐらいで妙に落ち込んでいる春子さんをなだめつつ、私は不良のリーダーの行方を追っていた。
春子さんはその付き添い。
危ないかもしれないからって付いてきたんだけど………思い出したかの様にプリンプリン言うから、何だかちっとも探す事に集中出来ない。………何だかわざと探させない様にしているみたい………まさか春子さんがそんな事するわけない……よね?それにそうする理由がないし………天然?
そう思った時、上空で匂いを追っていたコウリュウ(具現化レベル0.5・手乗りサイズ)が一声鳴いた。
見付けたの!?
コウリュウが少し離れた上空で旋回し始める。
「あそこね」
「え!?ちょ、ちょっと春子さん!」
不意に真面目になって走り出す春子さんに、私は慌てて後を追った。
星波町の至る所に空き家や空き地がある。
これは武霊が発生する様になってから、様々な理由で星波町を離れた人が多いからで………武霊が発生する前から比べたら、星波町の総人口は減少し続けているみたい。
それでも町として維持出来ているのは、星波学園があるからで、学園からかなりのお金が町に入ってるとか………商店街とかも今では学生重視の販売展開をしているし………
って、そんな事より、
「春子さん」
空き家の玄関前で立ち止まっている春子さんにやっと追い付いて声を掛けると、春子さんは口に人差し指を当てた。
何故か目を瞑ってて………まるで空き家の中の気配を探ってるみたい………漫画家ってインドアな職業のくせして妙に足が速かったし…………なんか今までのイメージの春子さんと全然違うんだけど………。
違和感を物凄く感じる春子さんは、少しして溜め息を吐いて、
「駄目ね。偽物だわ」
って言った。
「え?でも、コウリュウがここにいるって……」
「匂いまで再現する能力を持った武霊なんでしょ?………まあ、信じられないか………」
戸惑う私に、春子さんは玄関を開けて中に入った。
鍵が壊されていたみたいだけど………春子さんのあまりの躊躇なさに唖然とするしかない私。
「美羽ちゃん?」
「え?あ!はい」
不良のリーダーは空き家の今の隅にいた。
………でも、何か変で、私達が姿を現しても何の反応も示さず、ぼーっとしている。
「……流石に魂までは再現出来ないって事かしら?」
そう言って春子さんは不良のリーダーに近付いた。
その瞬間、不良のリーダーがいきなり春子さんに襲い掛かる!
「コ」
ウリュウを具現化させる前に、春子さんは不良のリーダーの腕を掴み、背負い投げ。
床に叩き付けられた不良のリーダーは、その姿を霧散させた。
「ほら、偽物だったでしょ?」
って私に笑顔を向けてくる春子さん。
確かに偽物だったけど………
「は、春子さんって強かったんですね………」
「ん?……………まあ、私のお姉ちゃんに死ぬほど鍛えられたからね………」
そう言う春子さんは、何だか遠い目をした。
………そう言えば、妙に夜衣斗さんのお母さんの事を怖がってたっけ………なるほど、そう言う事か………