第一章『武霊のある町』2
★美羽★
運命という言葉に憧れは抱いても、実際に運命に出会うなんて絶対にないって思ってた。
でも、私は運命に出会った。
黒樹夜衣斗。
町に来てたった一日で武霊を具現化させて、あの剛鬼丸を倒した人。
その場にいたのを、運命と言わないで、他になんて呼ぶのか、私は知らない。
だから、顔がついつい笑みを浮かべちゃってしかたがない。
その夜衣斗さんは、歩く私の後ろを文句も言わず、無言で付いて来てくれている。
武霊が『出るようになってから』の町の慣習で、『新しい住人が引っ越してきた場合、お隣もしくはご近所の人が、この特殊な町の事を案内しなくてはいけない』事になってる。
そうしないと突然のはぐれの発生とかに対応できなくって、怪我を、悪くて死んでしまう事もあったからなんだけど……夜衣斗さんは既にはぐれの発生を体験してるし、武霊使いになっちゃってるから……まあ、それでも町の案内は必要だよね。まだまだ夜衣斗さんが知らない事とか、疑問に思ってる事とかが沢山あるだろうし……でも……その割には、何にも聞かないんだよね。夜衣斗さん。普通はもっと質問詰めになったりするんだけど………そう言えば、女の子が苦手なんだっけ?………聞きづらいのかな?
私が歩調を緩めて夜衣斗さんの隣に並ぶと、夜衣斗さんは少し動揺した感じになった。
夜衣斗さんって、前髪で目を隠してるけど、感情とか、ばればれなんだよね……う〜ん。本当に女の子が苦手なんだ……昨日も思ったけど、どうしよう?………まあ、考えても仕方がないっか。普通に接しよう。うん。
考えている間、ずっと夜衣斗さんの顔を見ていたみたいで、夜衣斗さんはふいっと視線を風景に向けた。
……それにしても、ちょっともったいないな。夜衣斗さんって、前髪をちゃんとすれば、結構いい顔だと思うんだけど。
私は昨日見た夜衣斗さんの素顔を思い出しながら、素直な感想を抱いた。
昨日、コウリュウに乗っていた時、夜衣斗さんの前髪が風圧で後ろに流れていたので、その時見たんだけど………う〜ん。昨日会ったばかりの私が前髪をなんとかしなさいって言うのは変だよね。うん。
……なんだか、一言も会話がないまま目的地に着いちゃった。
目的地と言っても、町境のトンネルなんだけどね。
「外から来た人は、まず最初にここで『ある現象』を『体感』してもらう事になってるんです」
私の説明に、多分、夜衣斗さんは眉を顰めた。
「疑問に思ってますよね?町の外で『武霊の事が一切知られていない』事を」