間章その四『容疑者黒樹夜衣斗』25
★美羽★
「でも、実際問題、真犯人は囮に喰い付くんでしょうか?」
そうぼそっと言う美幸先輩に、みんなの視線が集まる。
その視線に、美幸先輩はビクッてして、その腕の中にいたゆきちゃんの耳が動いたけど、暴れる事はなかった。
………何だかちょっと怖いんですけど………
「それに、真犯人の武霊が転位系の能力とかを持ってたら、いくら張り込んでても誰が犯人か知る事も、次の犯行を防ぐ事も、出来ないんじゃ?」
………確かに………そうなのかな?
ちらっと美春さんを見ると、美春さん特に困りもせず、
「黒樹君が言うには、あんな事をしておいて、現場に文字を残すような奴は、自分の正義に間違いなく酔ってるそうよ。そんな奴は次の犯行を抑えられない……って話」
…………ん〜?何かおかしい様な………何か歯切れが悪いと言うか………。
私がじーっと美春さんを見ていると、ふいっと美春さんは視線を外した。
……長い付き合いだから分かるけど、美春さんって、何か隠したい事があると目線を話している相手に合わせないんだよねぇ〜………
「実は次にターゲットになりそうな人がいるとか?」
ってカマを掛けて見ると、ちょっとだけ身体が反応した。
……………。
全員の視線が美春に集まる。
ちょっとの間、沈黙。
そして、美春さんは溜め息を吐いて、
「殺人現場の死体がどんなに調べても五体分しかないそうよ」
って言った。
………確か、あの時の不良達って六人だったような………って事は!
「しかも、まるで死体が掻き消えた様な跡も残ってた………黒樹君も、東山も、不良の誰か一人が、『偽物を作れる武霊』を具現化出来る様になったんじゃないかって」
「じゃあ!犯人がその事を知ったら………」
美春さんは首を横に振る。
「可能性の話よ。もしかしたら、別の場所で殺されている可能性だってある。それに、もし生きてたとしても、しばらくは身を隠すでしょ?」
「でも!だったら、余計に保護(囮に)する為に探さないと。ね?美春さん」
「………保護……ね………」
私の言葉に、ジトぉーっとした目を私に向けてくる。
本音が少し漏れてたかも………。
「……既に犯人に分からない様に密かに警察や自警団で探しているわ………」
「人員は多い方がいいでしょ?」
私が次に言い出す言葉を予測した言葉に、私はにっこりと笑う。
じーっと私の目を見て、美春さんは溜め息をまた吐いた。
「………何を言っても無駄そうね………」
そう言って美春さんは一枚の写真を取り出した。
不良達のリーダー格の写真だった。