間章その四『容疑者黒樹夜衣斗』22
★夜衣斗★
「………簡単に言えば、俺を囮に使ったんでしょう」
「囮だと?」
俺の言葉に、団長はじろりと東山刑事を睨み、肩を竦める東山刑事。
目の前の二人のやり取りを、俺はとりあえず無視して話を続ける。
「状況から考えて、殺された不良グループにいじめられていた者達の中の誰かが、武霊使いに覚醒して………」
「ちょっと待て、武霊使いになるには、ある程度危機的な状況に陥らないと慣れないはずだぞ?そんな人間が……そんな事が起きたと言う話は聞いてないが?」
………まあ、確かにそうかもしれないが………
「全部が全部、危機的状況から自分の武霊を認識したって事じゃないでしょ?」
「……確かに例外はなくはないが………」
「……それに、武霊使いの具現化レベルを上げる薬物があるんです」
「強制的に武霊使いとして覚醒させる薬物もあるって事か!?」
「……まあ、可能性があるって話です………まだ、何も分かってないんでしょ?」
「………ああ………」
「……まあ、今はその話はあまり重要じゃありません。重要なのは、『いじめられていた誰かが、犯行日かその前日近く出武霊使いになり、犯行を行った可能性が高い』って事です………そして、その場合は、より犯人を見付けにくい。既に犯罪を犯した武霊使いが、自分の武霊を平然と登録しに行くわけがありませんし、人前で武霊を出す事もないでしょう………」
「だったら、どうして夜衣斗君が囮にされる?」
団長の質問に、俺は東山刑事から渡された資料をめくった。
そこにある現場写真に、一瞬、クラっと来たが………多分、元々俺に見せる為に持ってきた資料なのだろう。死体の写真はなく、代わりに一面が血の海の写真が一枚貼ってあった。
その写真の中央には、血で書かれたであろう文字が、
『正義参上』
っと書かれた血文字があった。
………その文字に、一昨日出会った二人の事をふっと思い出した。
……………まさか……そんな偶然があるんだろうか………。
そんな事を思いつつ、俺はその写真を団長に見せた。
「……これが、あったから、俺が囮になると東山刑事は思ったんでしょう」
「………どう言う事だ?」
「……自己顕示欲が強い奴って事です。………だから、別の人間が犯人として捕まったと言う噂を流せば、きっと激怒に駆られ、『俺に襲い掛かってくる』か、『新たな犯行を犯す』はずですから………」