間章その四『容疑者黒樹夜衣斗』21
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マジックミラー越しに美春は、取り調べ室にいる夜衣斗を見ていた。
今、夜衣斗がいる取り調べ室は、留置場と同じ様に武霊の具現化を封印する特殊な文字が書かれている部屋で、夜衣斗は部屋全体にびっちり書かれた武霊封印と言う文字を不気味そうに見ている。
「やあ。待った?」
取調室にのんき入って行く賢治に、夜衣斗は溜め息を吐いた。
「何その溜め息?……まあ、いいや。っで、黒樹君が言ってた話の証言は取れたよ。まあ、それだけじゃ容疑は晴れないけどね」
そんな事を言いながら、夜衣斗の対面に座る賢治。
「っで、君はどう思う?」
「……どうとは?」
「この事件に付いてだよ?」
「………ついても何も、俺の目撃された廃工場の近くであの不良達が殺されたって情報しか入ってませんから………」
「ん。そうだったね」
夜衣斗の言葉に賢治はにっこりと笑って、手に持っていた資料を夜衣斗の前に置いた。
流石に賢治のその行為に、美春は驚くしかない。
警察資料を事件の容疑者に見せる事なんて、まずありえない事だ。
つまり、
「……やっぱり、初めっから俺の事を犯人だと思っていませんね?」
今度は夜衣斗の言葉に驚かされる美春。
「へえ?何でそう思った?」
面白ろうに訊ねる賢治に、夜衣斗は溜め息を吐いた。
「………簡単な話です。俺に任意同行を求めた時………わざわざ、多くの人に見せ付ける様にしていましたし、容疑者って言葉も使ってました………普通は、そんな事を警察が人前で言わないでしょうし、被疑者って言うのが正式でしょ?」
その夜衣斗の説明に、賢治は笑い出した。
「あっはっはっは。いやいや、流石は今話題の黒樹君だ。っで?どうして俺がそんな事をしたと思う?」
「………実際、俺以外に犯行を起こす動機やアリバイのない武霊使いはいないんでしょう」
「それで?」
「……同時に俺じゃない何かが現場か死体に残されていた。では誰が?………個人的な予想ですが、武霊使いが犯罪を犯した場合、登録された武霊使いや、その武霊が使われた瞬間を誰かが目撃していた・動機などがはっきりしているなどを抜かせば、犯人を見付ける事も、立件する事も難しい……そうじゃありませんか?」
「うん。そうだよ。武霊使いの事件には、毎回毎回頭を痛ませているよ」
とか言いながら、全然頭を痛めてなさそうな呑気そうな賢治に、美春は溜め息を付き、マジックミラーのある部屋から、取り調べ室に移動した。
「あれ?ちょっと、駄目だよ?今、取り調べ中」
「夜衣斗君が被疑者でも何でもないんなら、取り調べでも何でもないだろ?だったら、民間人の私がここにいても問題ないだろ?」
「まあ、そうだねぇ〜いいよぉ〜」
あっさり許可した賢治に、美春はまたしても溜め息を吐いた。