第一章『武霊のある町』1
★???★
欲しい。
欲しい。
全てが欲しい。
世界の全てが欲しい。
あれも欲しい。
これも欲しい。
それも欲しい。
………でも、手に入らない。
だって、私は、私は、弱い人間。
ただ、ただ、奪われるだけの、弱い人間。
………だから、私は、欲しかった。
奪われる弱い人間じゃなくて、奪う強い人間になる為の力を、欲しかった。
………そう願い続け、私は、私じゃなくなった。
願いは叶わないまま、私は奪う人間になった。
奪う弱い人間に、なった。
だから、私は、奪われる。
全てを奪われる。
………それが、私の末路。
それが、私の運命。
………そうなるはずだった。
奇跡が起きるまでは………
★夜衣斗★
「もう!心配したんだからね!」
そう言って、いきなり抱き付いてくる叔母さん。
「………今、失礼なこと考えたでしょ?お・ね・え・さ・ん。だからね」
………勘の良い人だな。
俺が星波町に来て、骸骨犬や剛鬼丸に襲われた翌日の事。
美羽さんに用意してもらった朝食を食べている所を、ある意味、襲われたわけだ。
まあ、心配してたのは分かる。なんせ、あれだけの事があってから、ずっと寝ていたんだからな……まだよく知りはしないが、中には一ヶ月以上起きない人もいるらしいし……ちょっとぞっとするな。
まあ、何にせよ。
「離れてくれません?」
出来るだけ冷静に言う。
「どうして?感動の初対面なのに……」
いや、そうしゅんとされても……。
「……ははん?」
何かに気付き、唐突にニヤリと笑うお……お姉さん。
多分、俺の顔は真っ赤になっていたのだろう。なんせ………当たってるからな。って、余計に強く抱きつかないで………。
「春子さん。夜衣斗さんが、困ってるじゃないですか」
俺の困り様を見かねたのか、苦笑しながら止める美羽さん。
ちなみに、お……お姉さんは、俺の母親のかなり歳の離れた妹で、まだ二十代で許容範……何考えてんだか俺は………こんなんでやっていけるのか俺は………俺を預かったお姉さん……春子さんでいいか……春子さんの考えも分からないが、両親の考えも全く分からないな。………なお、春子さんの職業は漫画家。少女漫画を描いているらしいが………そっち方面はあまり興味無いので、俺は見た事がない。話によると、そこそこ売れているらしい。まあ、今いる二階建ての一軒家を借りているぐらいなのだから、それは間違いないだろ。
「困ってるからしてるんじゃない」
勘弁して。
「は・る・こ・さん」
ちょっと怒気の含んだ美羽さんの言葉に、さっと離れる春子さん。
………どう言う関係なんだ?ただのお隣さんって感じじゃないな。
「はいはい………ん〜とりあえず、美羽ちゃん。後は任していい?まだ、原稿終わってないのよ」
俺から離れた春子さんは、少し悩んでそんな事を言った。………何を任せるんだ?
「はい。仕事、頑張ってくださいね」
「勿論よ。じゃあね、夜衣斗ちゃん。日が暮れる前には、帰って来てね」
そう言って、春子さんはふらふらしながら部屋から出て行った。………徹夜でもしてたんだろうか?通りでテンションが妙に高かったわけだ……と言うか。俺が出かけるありきで話が進んでないか?
「夜衣斗さん。食べ終わったら、町の事、私が案内しますね」
案内?
「気になる事があるでしょ?色々と」
………確かに、知りたい事は色々あるな。
「それに、色々と手続きしなくちゃいけないですから」
………転入届も転居届は既に済んでんじゃなかったけな?
「勘違いしないで下さいね。しなくちゃいけないのは、『武霊使い』としての手続きですから」
………武霊使い?……言葉からして、武霊を具現化できる人間の事か?………つまり、俺はこれからそう呼ばれるって事か…………なんだか、色々とめんどくさい事になったな………