間章その四『容疑者黒樹夜衣斗』12
★???★
「何だよ!………何なんだよあれは!!」
その来塚 博の激昂に、楠木 久思はビクッと震えた。
今は昼休みで、二人がいる場所は漫画同好部の部室。
二人の他にも同好部メンバーはいるが、大体のメンバーが好き勝手やっているので、大きなイベントごとがない限り、部室には滅多に部員が来る事がない。その為、今、部室にいるのは二人のみとなっている。
「くそ!ムカつく!」
ドンと机を叩き、椅子を蹴り飛ばす。
「博。物に当たるのは………」
「久思はムカツかねぇのかよ!?あいつは……あの黒樹夜衣斗って奴は、あんだけ大量のはぐれを一瞬で倒せるくせして!倒せるくせして!あの糞供には何もしてねえんだぞ!?」
「仕方がないよ。何かしたら……」
「それがどうした!正しいのはこっちだぞ!」
博に何か言えば言うだけ怒鳴り返してくるので、久思は反論の言葉を飲み込んだ。代わりに心の中で、
(暴力に暴力で返せば、正しさなんて直に消えちゃうよ)
そう思ったが、やはり口に出す事は出来なかった。
今の博が自分に見せる『強さ』は、『弱い』自分だけに見せる強さだと知っているからだ。
博は『強い正義』に憧れている。
彼が見る漫画は全てヒーロー漫画で、ヒーローになろうと常に行動しているが、ヒーローになる為の努力は一切していない。
要するに口だけの男なのだ。
だから、久思の様にいじめられている者を見付けては、友達になり、俺が守ってやるなどと言いながら、結局は何のかんの理由を付けて守らない。
昨日の久思が受けていたいじめも、部室にいたなどと言っているが、ここからでも夜衣斗が上空に見せていた映像ははっきり見える。
悪を許さず、正義に憧れる。
その気持ちは本物なのだろう。
だが、それが行動になって伴っていなければ、その思いで集まった友達は離れる。
久思は博と友達になってから、博と親しげに話す者を自分以外に見た事がなかった。
だからなのか、博の言動はどんどん危険な物になるばかりで……特に黒樹夜衣斗が転校してきてからは、より酷くなり、物にまで当たっている。
そんな彼に、もしここで、強く反論などすれば………どうなるか久思には分かっていたが、分からない事にしていた。
結局は、久思の味方になっているつもりの彼も、久思をいじめていた連中と何も変わらない。
まあ、金品を要求しないだけでましだし、今の所、久思にも博以外の友達がいないのが現状だ。
そう思えば、我慢も苦ではない。
………だが、ふっと夜衣斗の事を思い出す。
自分とは違うタイプに見えたが、本質的には近い感じがした。
そして、彼なら本当の友達になれそうだ………そう久思は思った。
だが、それを博は許さないだろう。
何故なら博は、武霊使いではないからだ。