間章その四『容疑者黒樹夜衣斗』9
★飛矢折★
こう言うのって、あんまり好きじゃないんだけどな………。
そう思いながら、あたしは黒樹君と二人の男の子との会話を通路の曲がり角で聞いていた。
朝日部長から、黒樹君を一人で帰らせない方が言いって言われて、いつもより早く帰して貰い、ここにいる。
あたしも今の黒樹君を一人で帰すのは、黒樹君本人もだけど………不安を感じていた。
五月雨都雅を黒樹君が殺そうとした瞬間が頭の中でチラついて、それを否定する気持ちもあったけど……とにかく、彼の傍にいてあげたかった。
でも……本当に彼を一人にしない方がいいのかな?
まるで拒絶する様に二人の下を去って行く黒樹君の後姿を見ながら、あたしの中にその懸念が出てきた。
……どうしてこんな事を……。
そう考えながら二人の男の子が去って行く気配を感じ、気付いた。
あの二人って………どこか黒樹君に似ている。
三人が三人とも表面上は違うけど、その内面は近い。
そんな気がした。
★夜衣斗★
(あの二人。夜衣斗に近い感じがするだわね)
下駄箱で靴を履き替えている時、不意に美魅がそんな事を言ってきた。
美羽さんの前で正座していた辺りから再び肩車しているメガネベアも、美魅の言葉を同意しているのか頷く気配を感じる。
俺は溜め息一つ吐き、
俺もそう思うよ。
っと同意。
片や消極的で、気弱。
片や積極的で、強気。
だが、その根本は、俺と同じ物を持っている。
そんな雰囲気をあの二人は醸し出している……そんな気がした。
それをあの二人も感じたのだろう。
だから、片方は俺に親しみを覚え、片方は俺に嫌悪感を覚えた。
(夜衣斗は、色々考える奴だわね)
その美魅の言葉に、俺は苦笑した。
なんだか不思議な感じだった。
いつもだったら、リンチされたり、暴言を吐かれたりしたら、感情の負のスパイラルが起こり、思考がどんどん悪い方に進んで行き………時には暴走していた。
だが、今は俺の傍に………人じゃないとは言え、言葉を交わせ、理解してくれる二匹がいる。その二匹がいるからか、俺の心は不思議と負のスパイラルにも陥らず、暴走の気配すら感じない。
迷惑な同居人になるかと思ったんだけどな………。
(出会いなんてそんなもんだわよ。どんな相手が、どんな関係になるかなんて、出会って直になんて分からないもんだわよ)
そんな事を美魅に言われた時、背後に誰かがやってくる気配がした。
振り返ると、制服姿に着替えた飛矢折さんで、
「黒樹君。一緒に帰らない?」
って言ってきた。
きっと、俺を心配して部活を早く切り上げてきたんだろう。
美羽さんと違って、彼女には弱いところばかり見られているから………。
………そう言えば、彼女と最初に出会った時、こんな風に心配してくる間柄になるとは思いもしなかったな………