間章その四『容疑者黒樹夜衣斗』5
★美羽★
「あらあら?何をしているの美羽ちゃん?」
不意に背後から愛部長にそう言われ、私は思わずビクッとしてしまう。
夜衣斗さんが一人で学園内を回りたいって言いだして、一人で帰るのも何だなぁ〜って思ってうろうろしていたら、気が付いたら部室の前に来ていた。春休み前までは、放課後はいつも部室に来てたから、無意識の内に来てしまったんだろうけど………今の部室には入るに入れなくって、躊躇している内にいつの間にか愛部長が来てしまってたみたい。
………えっと………
「じゃあ、そう言う事で」
「まあまあ、待ちなさいな」
そう逃げ出そうとする私の腕を、愛部長は笑顔でがっしりと掴んだ。
腕を掴んでない方の手の中には………どこぞのレンタル屋の袋があって………サーっと青くなる。
「新作入ってたの♪」
「の♪じゃありません!」
愛部長はハクシまで出して私を部室内に引き込もうとするので、私はコウリュウを出して抵抗。
にこにこ顔の愛部長との必死の攻防に入ろうとした時、周囲がざわつくのを感じた。
愛部長との攻防はここ最近はしてなかったけど、それほど珍しい事じゃないし………なんだろう?
取っ組み合いつつ、周囲の騒ぎに愛部長と一緒に周りを見回すと、視界に入った何人かが空を見ている事に気付いた。
つられて空を見ると、そこには夜衣斗さんが『リンチされている巨大な映像』が映し出され…………え!?……ええええ!?何?何!?ど!どう言う事!?
「赤井さん!」
私が空に映し出されている映像に驚いていると、不意に物凄い勢いで巴先輩が現れた。
「あの映像の場所が分からないの!?お願い!コウリュウに乗せて!早く!!」
物凄く焦った巴先輩に、私は思わず何度も頷き、コウリュウを直に出した。
きっと、私より早くに空の映像に気付いて、直に夜衣斗さんの所に駆け付けようとしたけど、場所が分からなくって、私の所に来たんだろうけど………なんか……妙に必……いえ。今はごちゃごちゃ考えている場合じゃない。
コウリュウをレベル2にして私は右手に、巴先輩は左手に乗り、一気に飛び立たせる。
映像に映る建物からして場所は部室棟群のどこかだろうけど………長いんだよね。部室棟群って、小中高棟群から大学棟群まで長く細く作られているから、使われない所とか結構あって……しかも、大体似た様な形だから……直には見付けら
焦りながらコウリュウを部室棟群の上空に飛ばし、確認の為に空に浮かぶ映像をもう一度見ると、夜衣斗さんは地面に倒されて………どうして武霊を出して防御とか逃げるとかしないんですか!?そこまで禁止され
そこまで思って気付いた。映像の隅に、地面に倒れ、男に頭に踏み付けられている人がいる事に。
っと言う事は………あの人を助ける為に?……でも、それでも、夜衣斗さんのオウキならそんな目に合わなくても……何とかなるでしょ!?
色々な感情がわっとぐちゃぐちゃになって出て来て、涙が出てきた。
「赤井さん!あれ!」
巴先輩の声にはっとして、私は先輩が指し示す場所を慌てて見る。
そこには夜衣斗さんがスカウトサーバントって呼んでいた円盤が浮いていて、大きなレンズを下に向けて……そこなんですね夜衣斗さん!
急いでコウリュウ!
私の強い願いにコウリュウは直にスカウトサーバントの近くまで飛ぶけど、木や建物が密集してある場所で、レベル2のコウリュウが降りれそうな場所が近くになかった。
「巴先輩!コウリュウのレベルを……あれ!?」
レベルを落としますから、気を付けてください。って言おうとした時、巴先輩はすでにコウリュウの手の中からいなくて………コウリュウが下を見ているので、その視線の先を見ると、木の枝が揺れていて、空に浮かぶ映像に巴先輩が映っていた。
飛び降りた!?ここから!?
今のコウリュウは夜衣斗さんを探す為に低く飛ばせてはいたけど、少なくとも三階以上の高さがあったはず………もう、巴先輩の身体能力の高さに、私は唖然とするしかなかった。