間章その四『容疑者黒樹夜衣斗』3
★夜衣斗★
倒れている見るからに気弱そうな男に、屈み込んで恫喝している男。
その二人を取り囲んでいる五人の男。
………一瞬、負の記憶がフラッシュバックを起こし、俺は眉をひそめた。
これと同じ状況を経験した事がある。
勿論、倒れている男と同じ状況を。
取り囲んでいる男の一人が、俺の気配に気付き、
「あん?んっだてめぇ!?」
その言葉に倒れている男以外の視線が俺に集まった。
………不良はどこも同じ……か……。
向けられた視線が放たれている……腐った目は、俺の心をかき乱し、恐怖と怒りを併発させる。
「おい。こいつ。黒樹夜衣斗じゃね?」
「あ?こいつが?」
「ああ。間違いねぇって」
っと声が聞える。
………どうしたもんだろうか………。
そう考えていると、倒れている男と目が合った。
………数年前まで、いや、今でも時々鏡で見る目。
嫌いな目がこの場に二種類。
俺は思わず深い溜め息を吐いた。
それが癪に障ったのか、全員が「あ?」だの「んっだめぇ?」っとか一斉に言い出す。
もっとも一人だけ、そう言わない奴がいた。
倒れている男の前で屈み込んでいる男だ。
………こいつ。
俺はふと嫌な予感を覚え、念の為の『策』を密かに実行した。
その策の準備は直に済むと同時に、屈み込んでいた男が立ち上がり、
「囲め」
っとぼそっと命令した。
……感じからしてこいつがリーダーなんだろう。
「何?マジ言ってんの?」
取り巻きの一人が思わずと言った感じの言葉を言うと、リーダーの男は、小馬鹿にした様な笑みを浮かべ、
「馬鹿かてめぇ。こいつがいくら化けもんみたいな武霊使いだとしても、俺らに武霊は使えねぇ」
確かに星波長市役所で受けた武霊使いの義務でも、星波学園の武霊使いの規則でも、武霊使いが武霊を人間に攻撃させる事は禁止されている。
武霊は言うなれば、凶器だ。
それ相応の扱いを受けるの当たり前だし、また、それを利用しようと考える輩も出てくるのは………まあ、当り前だと思う。
「でもよぉ」
それでも躊躇する取り巻きに、リーダーの男は、楽しそうな笑みを浮かべ、
「分かってねぇなぁ?こいつにこの場を見られちまったんだぞ?チクくらせねぇ様に、ボコっとかねぇといけねぇだろうが。あ?」
そのリーダーの言葉に、取り巻き達は顔を見合わせ、へらへらと笑い出し、俺をゆっくりと取り囲み始める。
俺はそれを見ても俺は動けなかった。
リーダーの男が、俺に見せ付ける様に倒れている男の頭を踏んだ。
………逃げれば……って事なんだろう。
「そいつの武霊は回復系も能力もあるって話だ。遠慮無しにボコれ」
………これだからクズは嫌なんだ……無駄な所に頭が回って………。
リーダーの男の言葉に、俺は思わずそう思い、再び深い溜め息を付いた。
取り巻き達がそれに律儀に反応したが………まあ、どうでもいいか。