間章その三裏『美魅様とメガネベア』12
不意に夜衣斗に様付けで呼ばれ、美魅は頬を掻いた。
「あたいは、様付けで呼ばれる様なもんじゃないんだわよ」
その言葉に、夜衣斗は前髪の隙間から僅かに見える目を瞬かせた。
「あたいはそこらにいる只の化け猫だわよ」
「……只の……化け猫って……」
困惑した夜衣斗に、
「まあまあ、寝てるんだわよ。切っ掛けはあたいがあんたの中に入った事だったけど、いずれは同じ事になってたはずだわよ。今の内に、休める内に休んどくだわよ」
っと美魅は言ったので、夜衣斗はある予感を感じ、
「中に……って事は……サヤに……会いました?」
っと聞いた。
「会っただわよ。あんたも大変だわね。幸運何だか不幸なんだか、あたいには分らんないだわよ」
「っは………確かに……」
「まあ、兎に角だわよ。この子は運命を変えられる選択を与えられたものだわよ。だから、あんたが意図して接触しても何ら影響を得ない相手だわさ」
そう美魅が紙包みに向かって言うと、不意に紙包みがぱさりと床に落ち、まるで紙包みを透過したかの様にメガネを掛けた白熊が現れた。
よいしょっと言った感じで立ち上がり、背伸びをするその白熊はクイッとメガネを上げ、夜衣斗を見て小首を傾げる。
「メガネベアだわよ」
「……単純な……名前……」
「だわね。まあ、テレパシーをコミュニケーション手段にした、言語がない種族みたいだから仕方がないだわよ」
「………濃い……設定……で……ってか……なんで……ここにいるわけ?」
「さあ?」
メガネベアに一人と一匹の視線が集まると、夜衣斗・美魅の頭に映像とその時の感情が送られてきた。
それによる隠れたおもちゃ屋で、偶々入れ替わってぬいぐるみの振りをしていたぬいぐるみがくじ引きの景品だったらしく、寝ている間に女の子達に当てられ、ここまで持ってこられてしまったとの事。
「まあ、偶然ってもんはあるもんだわね。逃げ込んだ先でまたあんたに出会うだわなんて」