間章その三裏『美魅様とメガネベア』11
ふっと夜衣斗が目を覚ますと部屋の光景が変わっていた。
うっすらと開けた目に知った顔が何人もいて夜衣斗は訳が分からず、頭の中に?を大量に浮かべる。
熱で頭がぼんやりとしているので、部屋にいる者達の会話は断片的にしか聞こえず、理解出来なかったが、かろうじて未だに終わってない自分の引っ越しを代わりにやろうとしている事は理解出来た。
(なんで……みんなが?………お節介し過ぎだって……ありが……って!不味いじゃん)
ある事を思い出し、大いに慌てるが、思う様に声を出せず、動く事も出来なかった。
辛うじて誰かの足を掴むが、その掴んだ相手が、
(なんで緑川がここにいる?)
昨日、これでもかってくらい叩き潰した相手がいる事に疑問に思ったが、ある意味では都合が良かった。
そう言う問題なのだ。
(………だが、すがる相手がこれか……ストレートに頼むより……おとりに使うか……そうすれば、『見付かる可能性』は多少は減る)
そう思った夜衣斗は、足を掴まれて困惑している緑川響に、何とか声を振り絞ってある事を頼んだ。
(うまくいけばいいんだけど………?……なんだこれ?)
響に一抹の不安、どころかかなりの不安を感じつつ夜衣斗は視線を部屋の中に巡らすと、響のいた反対側に大きな紙包みがある事に気付いた。
気にはなったが、その中身を確認するほどの力はなく、なんとなしにじーっと見ていると、不意にその紙袋ががさっと動く。
驚いて目を見開くと、更に驚く事が起きた。
「あんた。こんな所で何してんだわよ」
声が聞えた、しかも女性の声が、何故か自分の中からし、固まる夜衣斗。
固まっている夜衣斗をよそにその声の主は夜衣斗の胸からぬっと出て来て、紙袋の前に移動した。
(昨日の猫!?しかも喋った!!?はぐれ……なわけないか……武霊は喋れないし………じゃあ……なんだこれ?………)
視線をその猫に向けていると、猫はその視線に気付き、くるっと夜衣斗の方に身体を向け、
「悪かっただわよ。まさかあんたの身体にそんなに疲労が蓄積していると思わなかったんだわよ」
そう謝る猫に、ふと赤井美羽が昨日語った名前の由来を思い出した。
「美魅……様?」