間章その三裏『美魅様とメガネベア』7
黒樹夜衣斗は、深夜はっと気が付いた。
(ヤバい。今週号買ってないじゃん)
いつも購読している週刊雑誌を買ってない事を思い出した夜衣斗は、寝ようとしていたベットの上でうろたえる。
(別に明日買っても……いや……でも、この町の雑誌状況を知らないし……売り切れてたらどうしよう………)
などと逡巡しつつ、出掛ける為に寝巻きから外着に着替える夜衣斗。
心は迷ってても、身体は買いに行く気まんまの様で、後の問題は、
(春子さんは……起きているだろうか?)
時間は既に深夜近い。
そんな時間に出掛けるのは、まだ未成年の行動として、あまり褒められたものではない。
それを気にする現役高校生がどれほどいるかは分からないが、少なくとも夜衣斗は気にする部類の高校生の様だ。
そおっと部屋のドアを開けると、ばったり丁度向いの仕事部屋から出てきた黒樹春子と鉢合わせ。
「お出かけ?」
にまぁって感じに笑う春子に、夜衣斗は気不味い笑みを浮かべ、小さく頷いた。
「じゃあ……プリン買ってきて、でかいやつ」
(うわ……一様の保護者とは思えない言葉。ってか、どんだけプリンが好きやねん)
っと春子の言葉に、思わずそう思う夜衣斗だった。
春子に教えて貰った家から最も近いコンビニは、廃工場の近くにあり、見ようと思えば見える位置にあった。
夜衣斗は廃工場についてあまりいい情報(犯罪武霊使いの溜まり場になっている。とか)を聞いていないので、どうも嫌な予感を感じつつ、目当ての漫画雑誌とプリンを買ってコンビニから出る。
帰路に付く夜衣斗は、その途中で妙な気配を背後に感じた。
気のせいかと思いしばらく歩き続けるが、その気配は一向に消えず、やや迷って振り返る。
視線を巡らすが、何もない。
だが、妙な気配は確実にしている。
よく分からず、少々困惑していると、不意に暗がりから
「……白い…猫?……」
が出て来て、少し驚いた。
(妙な気配の正体は猫だったのか?)
っと首をひねりつつ、近付いてきた猫に、ほぼ条件反射の様にしゃがみ、撫でた。
周りにはオープンにしていないが、夜衣斗は結構動物好きだったりする。
しばらく撫でていると、不意に猫が足に力を込めた。
それを疑問に思うより早く、いきなり猫が夜衣斗の胸に向けって飛び込んでくる。
夜衣斗はそのあまりの素早い動きについてこれず、一瞬だけ固まるが、その次の瞬間には慌てて自分の胸を見るが……そこには何も居らず、何の感触も無かった。
周りを見回すが、どこにも猫は見当たらない。
(なんだったんだ?はぐれ?……そんな感じじゃなかったが………もう……本当に何なんだよこの町)
町に来てから次々と自分の身に起きる異常な出来事に、夜衣斗はげんなりしつつ、猫の事はあまり深く考えない事にした。
(どうせ考えても分からない)
っと思ったからだ。
ただ一つ気になる事が、
(何だか急にだるく、熱くなった様な………気のせいか?)