間章その二『うさぎと魔人』23
★飛矢折★
抱き付き癖のあるいつもの美幸なら、きっとあたしに抱き付いている。
でも、美幸は抱き付いてこない。
それは、美幸が心の奥底であたしに対して恐怖を覚えているからで………その事に美幸は気付いていなかった。
だけど、今、自分の行動を見て、美幸は………
「……ぁ!」
小さな声を上げ、僅かに震えている自分の手を見た。
黒樹君の予想だと、美幸が自分から自分の恐怖に気付く事が出来れば………
美幸は震える手を見詰め、あたしを見て、ゆっくりと手を近付け……怯えた様に手を引っ込めて……また近付けて、今度は私の頬にゆっくりと手を触れた。
その手はまだ僅かに震えている。
それでも、美幸はゆっくりとあたしに抱き付いた。
「……そっか………ゆきちゃんが暴れているのって………ゆきちゃんが、はぐれ化を起こし掛けているだけのせいじゃなかったんだね………私が………怖がってたんだ………だから……………でも、どうしよう………分かっても、恐怖に気付いても………私………どうしたら……」
そうつぶやく美幸にあたしはゆっくり、優しく後頭部を撫でた。
「美幸が学校に来ない間ね」
「……うん……」
「転校生が来たんだ。黒樹夜衣斗君って言う男の子なんだけど」
「うん」
「彼が言うにはね。恐怖は誰もが持っているもので、その恐怖の対応も人とそれぞれで……上手く対応すればその恐怖の質は変わるって」
「う……ん?」
「だから、どうする事も出来ないんだったら、どうもしなくてもいいんだって」
「ぇ!?だって……それだと」
「大丈夫。その彼が言うにはね。美幸とゆきちゃんはまだちゃんと繋がっているんだって」
「繋がってる……そんなはずは」
「美幸。必死に止めようとした?」
「ぇ!?」
「心の底からゆきちゃんを止めようとした?」
「……………して………なかったかも………」
「大丈夫。美幸がゆきちゃんを好きな様に、ゆきちゃんも美幸が好きなはずだから……美幸の声はきっと届くよ」
「………うん……」
美春の頷きにあたしは、頷き返し、携帯電話を取り出して黒樹君の携帯に掛けて直に切った。
これで、黒樹君はゆきちゃんの足止めを止める。
後は………
家の外で何かが着地する音がする。
壊れた窓から見ると、ゆきちゃんがいて、こっちに向かって飛び上がって来た。
部屋に入って来たゆきちゃんの視線はあたしに向けられている。
威嚇の声を上げるゆきちゃんに、あたしはゆっくり美幸から離れた。
……もし、これで美幸がゆきちゃんを止められなかったら………あたしはきっとゆきちゃんに殴り殺される。
………でも、あたしは、美幸と……そして、黒樹君を……信じる。