第二章『カウントする悪魔』81
★美羽★
夜衣斗さんの部屋に入ると、夜衣斗さんが私の後ろ、飛矢折巴さんを見て驚いているみたいだった。
………うん。まあ、そうだよね。普通は驚くよね………私も春子さんの家前で会った時、物凄く驚いた。
それは、「もう送り迎えをしてくれなくてもよくなった」って、自分で言ってたからなんだけど………
昨日、夜衣斗さんの前でばったり会ってから、意志力の使い過ぎで倒れている夜衣斗さんを家に送るまで(飛矢折巴さんが夜衣斗さんをおんぶしてくれた。正直、私も意志力の消費し過ぎだったから助かったけど……)、何でいたのか理由を聞いたんだけど………あの部長………余計な事をしてくれて……愛部長といい勝負だよ……………でも、いい事をしてくれたのかも?もし、夜衣斗さんが送り迎えをしてなかったら、飛矢折さんはきっと……………。
「おはよう黒樹君」
そう言ってほほ笑む飛矢折巴さん。
「おはよう……」
ちょっと照れた様な、困った様な感じで挨拶を返す夜衣斗さん。
……………今気付いたんだけど………飛矢折さんって………凄く美人なんじゃ………プロポーションもいいし……………?何で私、そんな事を気にしたんだろう……………えっと、とりあえず。
「おはようございます。夜衣斗さん」
★飛矢折★
「おはようございます」
赤井さんの挨拶をちょっと照れた様な、困ったような感じで挨拶を返す黒樹君。
昨日、意志力の使い過ぎで意識を失った黒樹君を自宅まで運んだ時、これまでの事情と一緒に少し赤井さんと話したんだけど…………その時、黒樹君を名前で呼んでいたものだから、随分親しい感じがしたんだけど………黒樹君の方は、まだそんなに打ち解けてないのかな?……………?何でそんな事を気にしているんだろう?………何だか妙な気分……。
「昨日、意志力の使い過ぎで意識を失ったみたいでしたから、今日は起きないんじゃないかと心配したんですけど………やっぱり夜衣斗さんは凄いですね。普通に起きてますし」
その赤井さんの言葉に、困った様な感じになる黒樹君。
……あたしも、それに少し違和感を感じたんだけど……その違和感の正体が分からなかった。
「それで、起きて直にこう言う報告をするのも何なんですけど………」
そう言って、少しだけあたしを見る赤井さん。
視線の意味が分からなかったけど、次の言葉で理解した。気遣いの目線だった。
「五月雨都雅が行方不明になりました」
その言葉に、あたしは驚くしかなかった。
はぐれ化をあいつが起こす時、あいつは、多分、剣の武霊に胸を貫かれて、絶命していた。
仮に、死んでいなかったとしても、あの場所から動けるような状態じゃなかっただろうし………っと言う事は、
「美春さんの話だと、夜衣斗さんを助けに向かった時に剣の武霊と龍の武霊が現れて、美春さんを邪魔したそうですから、その武霊使いは都雅と何らかの関わりを持っていて、助けだされたか………それとも……」
言葉を濁す赤井さん。
とてもここが日本とは思えない話をしている。
………でも、あいつがあの時使った注射器。あれからあいつはとんでもなく強くなった。
あたしは長年星波町に通っているし、親友に武霊使いもいる。
それでも………そんな薬品があるなんて聞いた事がない。
昨日の帰り際に、その事を赤井さんに伝えているけど………
「それと、飛矢折巴さんから聞いたんですけど」
……何でフルネーム?
「都雅が武霊を強化する薬を使ったそうですね………でも、そんな薬があるなんて美春さんも、知らないそうなんです」
それってつまり、架空の話でよくある地下組織みたいなのがあって、武霊に付いての研究がされているって事?………町単位で?………ありえるの?
そう思って黒樹君を見た時、黒樹君は不思議なほど平然としていた。
………てっきりかなりの動揺をしていると思ったんだけど………これも予想済みって事?………。
「それに付いては、警察と一緒に調査を始めるそうなんで、都雅の件も含めて、後日話を聞きたいそうです。……勿論、飛矢折さんも」
黒樹君が頷くのを見ていたら、不意にこっちにも言われたので、ちょっと慌てて頷いた。
慌てたあたしに、少し不思議そうな顔をして……ちょっと考えて不意に赤井さんが、
「………ところで………何で今日、飛矢折巴さんはここに来ているんですか?」
そんな事を言ってきた。
………そう言えば、昨日、赤井さんが、あたしが黒樹君を運ぶのを不安そうにしていたので、もう平気になったって言ってたっけ………確かに、もう、黒樹君の送り迎えはいらない………でも、逆鬼ごっこ中うちの部で匿う約束はまだ響も含めて二日ある。それに………
「結局、昨日はお礼が出来なかったから」