第二章『カウントする悪魔』76
★???★
何が切っ掛けでそうなったのか、不意に、周囲の者の本能が漏れ出し、自分に向けられるようになった。
物理的ものから、精神的なものまで、それは明らかないじめだった。
その範囲は、いじめを受けている自分ですら分からないほど広く、多かった。
それ故に、そのいじめが表面化するのにそれほど時間が掛からず、表面化したいじめに、両親は世間体を気にして自分を閉じ込めた。
優しい言葉も、気遣う言葉も、蔑む言葉も、怒りの言葉も、叱責の言葉も、一切無く、定期的に食事が自分の部屋の前に用意されるだけ。
強制的な引きこもりにされた。
外に出なくても両親が外でどんな両親を演じているか、どんな筋書きを用意しているか想像出来た。
いじめを受け、それが原因で引きこもりになった自分を心配する両親。
そして、何年かして両親の努力で引きこもりを止める自分。
そんな間違いようのない想像に、自分を演じなくて済む誰もいない自室の中で、本能が達した結論が頭の中でちらつく。
だから、数を数え出す。
いつもならそれで本能はギリギリで抑えられた。
だけれでも、外ではいじめ、内では両親に…………
もう、本能を止める理性の僅かな抵抗は無くなっていた。
完全に本能に支配された理性が、本能が望むままに行動を起こさせる。
そして、
★夜衣斗★
「そのいじめは苛烈を極め、直接的なものから、間接的なものまで、世間で言われているあらゆるいじめを都雅は体験したと言っていいだろう」
自分の中で、また怒りの炎が燃え出すのを感じたが、一切の方向性のない怒りだったので、俺にはどうする事も出来ず、話の続きを黙って聞く。
「そんないじめがばれないわけもなく、それなりの騒動を起こして、表面上は解決される。だが、その結果、都雅は引きこもりになった。もっとも、その引きこもりは都雅の意思によってしているものではなく、世間体を気にした両親の指示によるものだった」
世間体を気にして?
「苛烈ないじめを受けた子供が、平然といじめを受けた現場に戻るのはおかしな話だろ?」
………そりゃそうかもしれないが………
「実際、その時の都雅はいじめによるダメージはそれほど感じていなかった。それ以前に、都雅は壊れかけていたからな」
………
「それでもぎりぎり所で人間としていられた都雅だったが、両親によって引きこもりにされた事により、自身の本能とより向き合う事になり………完全に壊れた。そして、都雅は、本能の命じるままに、殺し始めた」
殺し始めただと?
「そう、都雅は殺人者だよ。それも、救いようのないほどの数を殺したね」