第二章『カウントする悪魔』75
★夜衣斗★
「五月雨都雅が五月雨都雅となる前より前。都雅が普通の良識的な人間だった頃」
良識的な人間だった?
「ああ、その頃の都雅はまるで人の模範とでも言えるほど、良識的な人間だったようだ。勿論、その両親も」
…………それって、もしかして、『表向きは』って事か?
「その通り。都雅も、都雅の両親も、良識的だったのは、あくまで表のみ。特に両親は、互いを嫌悪し合うほど嫌い合っていた様だ。だが、彼らは世間体を気にして、家の外では模範的な夫婦を演じ、それを子供にも強要した」
仮面家族って事か………互いを嫌悪し合っていたのなら、当然、その子供に愛情が向けられる事はないよな………。
「そう。都雅の両親に都雅を愛する気持ちなど欠片も無く、ただ世間体を保つ為の道具としてしか見ていなかった」
道具って………
「外では偽りの愛情を向けられ、内では真実の無情を向けられ………それでも、ただただ両親に見て貰いたくて、両親に愛されたくて、両親の言うがままに、理想の子供を演じ続ける」
……………
「そんな環境にいた都雅だからこそ、都雅は人の表と裏、仮面と素顔、理性と本能、それらの違いを人より感じる事が出来、それらを感じる度に、自身の中のそれらを強く感じる様になっていた。そしてその度に、理想の子供を演じるのに邪魔な本能を理性で抑え付け、抑え付ける度により他人の理性と本能を感じるようになり、再び自身の本能を抑え付ける。その繰り返しで、都雅の本能は徐々に徐々に強くなり、やがて、本能を押さえ付けていたはずの理性が本能に支配される様になる。抑えられなくなる本能を、理性は必死に抑え付ける為に、都雅自身の理性の象徴である数数えをし始めた」
数数え?
「都雅は何もしていないと数を数える癖がある。それにより、都雅は自身の精神を本能に支配されながら維持し、多少なりとも理性的に行動出来ていた。だが、その数えこそが最も都雅が壊したいものの象徴であり、破壊の対象だった。だからこそ、クラッシュデビルの両手にあのカウンターが付き、カウンターが進む度に破壊力が倍加する能力が付与されたんだろう」
そう、そのカウンターなんだが………
「そんなギリギリの状態の都雅にある時、事件が起きた」
おい!………また無視かよ……
「表向きは模範的な優等生である都雅を快く思わない者達によるいじめ」
……………