第二章『カウントする悪魔』71
★???★
(分が悪いか………)
そう思いながら亮は巴の攻撃を避けていた。
(龍王の加護の効果もそろそろ切れるしな……)
今の亮の身体は夜衣斗のPSサーバントの様に超人化していた。
それは朝日竜子の武霊『龍王』の能力の一つである『龍王の加護(龍王の血を飲む事により発動する能力)』によるもので、その効果は身体能力の強化のみならず、あらゆる攻撃の無効化する。その為、巴の攻撃を受けても平然としていられる。だが、その効果時間は受けるダメージによって短くなる特徴がある為、巴の攻撃を避け切れない今の状況は非常に不味かった。
(竜子から聞いた通り、女の子とは思えない強さだな)
亮にも多少の武道の心得がある。だが、それはあくまでスポーツ化した武道である為、実戦を想定した巴の攻撃を避け切れず、何度か攻撃を受けざる得なかった。もっとも、武道だけでなく、元々の身体能力・実戦経験など、勝っている部分を亮はどこにも感じてはいないのだが………。
(……それに長くいれば……)
亮がそう思って空を見た時、琴野沙羅の武霊ヒノカがこちらに向かってるのが見えた。
(頭上で戦っているコウリュウがいる事を考えれば、その背中に美羽が乗っているのは間違いないだろうな………そろそろ『反動』が起きる状況で、美羽の指示を受けるコウリュウとブルースター単独で戦わせるのは無謀か……)
そう考えた亮は、ブルースターに指示を出し、『自分に向って』炎のブレスを吐かせた。
炎の気配を感じた巴は反射的に後ろに飛んで避けるが、亮は避けない。
まだ龍王の加護の効果時間内だからだが、何より、言うべき事があったからだ。
炎に包まれながら、亮は意志力の消費し過ぎで未だに立ち上がれない夜衣斗を見た。
「出来る事なら、早くこの町から出る事だな」
亮のその言葉に、夜衣斗が何か言いたげな気配になる。
「忘却現象なら、それの現象外の理由を作ればいい。……それくらい君なら既に思い付いていただろう?」
★夜衣斗★
大原亮のその言葉に、俺は心の中でも反論出来ないでいた。
………確かに、それは思い付いていた。
忘却現象はあくまで武霊に関する事のみを忘却させるのなら、武霊に関する理由で星波町を出る事は出来ない。
仮にその理由で出ると、町を出た途端に町を出る理由が自分の中から消える為、結局は戻ってきてしまう可能性が高い。
だが、その理由を、武霊以外のものにすれば?
そうすれば、その理由の動機が例え武霊であったとしても、その理由は残るので、町に戻ってくる事はないはず。
そう考え………俺はその考えを否定した。
この町にから俺が出て行くのに最も簡単な理由は、学園を退学になる事だからだ。
そんな両親や周りを悲しませる様な事を、例え自分の命が掛かっている事だとは言え………そんな事を俺には、自分には、出来ないと思っていた。
……それに、そんな事で、俺に降りかかる運命から逃れられる気がしないしな……。
「出て行く気がないのなら、いずれ、君の武霊を貰いに行く」
そう言いながら、大原亮は炎の中に消えた。
「だから、それまでこの最悪の町に殺されるなよ?」
……………っは、殺されてたまるかよ………
心の中で俺はそう思うと同時に炎が消え、そこに大原亮の姿はどこにもなかった。
終わったんだよな………
思わず深いため息が出て………そこで気が抜けたのか、俺の視界は唐突にブラックアウトした。