第二章『カウントする悪魔』65
★夜衣斗★
放った弾丸が都雅によって消滅、足に迫るクラッシュデビルの右小指。
そんな絶体絶命の状況の中。
視界の隅で、飛矢折さんがステルスを切り、現れるのが見えた。
その左手は右手首から出ている刀の柄に添えられており、その表情にまるで静かな水面の様に………。
飛矢折さんの動きに気付いた都雅は、驚愕した表情になり、振り向き様に腕を振るおうとしたが、遅い!
飛矢折さんの姿が掻き消えると共に、電撃音。
気が付くと都雅の斜め前飛矢折さんは移動していて、刀を抜いていた。
そして、ゆっくりと刀を右手首に納刀。
その動きと共に、都雅はゆっくりと倒れ、俺を捕まえていたクラッシュデビルが掻き消えた。
ゆっくりと息を吐く飛矢折さんを見て……俺も息を吐く。
どうやら今の一瞬、俺は息を吸う事を忘れていたみたいだった。
「飛矢」
折さん。って言おうとして、俺は言えなかった。
不意に飛矢折さんが俺に……抱き付いてきたからだ。
固まる俺の耳元に、再び震え出した飛矢折さんは、
「ありがとう、黒樹君」
そう言った。
★飛矢折★
柄を握った瞬間、あたしは、ほとんど条件反射的に身体が動いていた。
頭ではなく、身体で覚えた居合の動き。
PSサーバントで強化されたあたしは一瞬で、あいつの脇を通り抜け、刀を振るっていた。
振り抜けた刀をゆっくりと右手首に戻す。
仕組みは分からないけど、ゆっくりと刀身が手首の中に入るのを感じつつ、あたしは彼を見ていた。
彼は無傷だった。
あいつが倒れる気配と、消えるあいつの武霊。
武霊が消える際、あたしと何故か目が合ったけど………もう、怖くはなかった。
今の一瞬が、荒治療になったのか、只単に心が麻痺しているか分からなかったけど………あたしの彼に対する思いでいっぱいだった。
ゆっくりと息を吐きながら、あたしはこの思いに戸惑っていた。
色んな感情と思いが心の中を渦巻いていて、わけが分からなかったけど………ほとんどが、初めての感情と思いだったと思う。
だから、その感情と思いを制御する術をあたしは知らなくて、あたしの名前を呼ぼうとした彼に、思わず抱き付いてしまっていた。
そして、
「ありがとう、黒樹君」
って言って、気が付いた。
なんて恥ずかしい事しているのあたしは!?
恥ずかしくて、顔が赤くなるのを感じたけれど、彼から………黒樹君から離れたくなくて、顔を見られたくなくて、より強く抱き付いてしまった。