第二章『カウントする悪魔』53
★夜衣斗★
怒りが、殺意を誘発する先程までの怒りとは違う、怒りが俺の中を駆け巡る。
先程までの怒りを『負の怒り』とするなら、今の怒りは『正の怒り』だろう。
弱い自分に対する怒り。
恐怖に駆られながらも必死に向けられた飛矢折さんに対する怒り。
安易に殺意に身を任せかけた事に対する怒り。
この理不尽な状況に対する怒り。
無数の怒りが、熱を帯びて駆け廻り………飛矢折さんの瞳から流れる涙を見て、冷たくなった。
怒りが消えたわけではない。
怒りで暴走していた思考が、落ち付き、冷静になり、今までにない速度で、思考を巡らし始める。
そして、『ある事』とそれを基にする『一つの作戦』を思い付き、決意と共に、俺は、それを言葉にしていた。
★???★
五月雨都雅は悠然と歩く。
向かう先は、自身の武霊クラッシュデビルが示す獲物の場所。
先程まで都雅を捕まえ様と立て続けに現れていた武霊達は、もう来ない。
背後ではレベル2のはぐれとの戦闘がまだ続いているのからして、もう武霊を都雅に回せる余裕がなくなったのだろう。
最早、都雅の歩みを止める者はおらず、正確に夜衣斗と巴の隠れる廃倉庫へと向かっている。
クラッシュデビルには、『一度狙った獲物を絶対に逃さない、どんな場所に居ても獲物の場所知る事が出来る能力』があり、それを使って、都雅は二人の場所を特定していた。
それはすなわち、『星波町内で二人が逃げ隠れ出来る場所は一切ない』事を意味し、例え星波町から出たとしても、忘却現象により『町を出なくてはいけない理由を忘れてしまい戻ってきてしまう』。
その上、都雅に唯一対抗出来る夜衣斗は自身の武霊を具現化出来るまで回復しておらず、都雅自身は未だにレベル3を維持出来る程高い意志力を維持していた。
夜衣斗と巴の二人は、完全に追い詰められていた。
その状態を逆転させるには、『命のやり取り』しかない。
それも夜衣斗側にとてつもなく不利な。
それを理解している都雅は、笑みを浮かべていた。
とてつもなく嬉しそうな笑みを。