第二章『カウントする悪魔』52
★飛矢折★
彼から都雅を殺そうとした時と同じ殺気を感じ始めた。
多分、こう結論付けたんだと思う。
今のあいつからあたしを守るためには、あいつを『殺すしかない』。っと。
確かに……それしか方法がない。
そう私も感じた。
でも、でも………嫌だった。
とてつもなく嫌だった。
彼が、あたしなんかの為に『人殺し』に……なるなんて………だから、あたしの口は、自然と、
「もういいよ」
っと言ってた。
多分、強張った笑みと共に、
★夜衣斗★
飛矢折さんのその言葉に、俺は一瞬、思考を止めた。
「あいつの狙いはあたし一人だろうから、あたしから離れれば黒樹君は、きっと助かるよ」
「何馬鹿な事を」
言っているんだ。っと言い切る前に、不意に感情を吐露した大声で、
「あたしなんかの為に!黒樹君が人殺しになる必要なんて!無いんだよ!」
っと飛矢折さんが言った。
その瞬間、都雅に向けた怒りとは違う『別種の怒り』が俺の中を駆け巡った。
★飛矢折★
あたしは、彼に守られる価値は無い暴力女。
あたしは、彼に助けられる価値の無い臆病者。
あたしは、彼に優しさを向けられる価値のない酷い人間。
そんな言葉があたしの中を駆け巡る。
あいつへの恐怖が、彼の殺意が、あたしの弱さが、今まで抑えていた感情を吐露し始めているのが分かる。
「だってあたしは……助けてくれた親友の美幸も………傷付ける様な最低な女なんだよ!」
分かってはいても、それを止める術は、今のあたしにはない。
涙が自然とこぼれる。
情けない。
でも、止められない。
そんなあたしを、彼はじっと見つめる。
前髪から僅かに見える瞳。
その瞳には、さっきまで彼から放たれていた殺気は無く、はっきりと分かる激しい怒気があった。
こんな情けないあたしに怒っているの?
それとも、自分に対して怒っているの?
それとも、
「わかりました」
不意に、彼の瞳から激しい怒気が消えた。
でも、怒気が消えたわけでもなく、とても静かな怒気に変質したのをあたしは感じた。
「五月雨都雅を、殺さず、倒します」
その言葉と共に、彼の瞳に強固な決意が現れた。
「俺は………逃げません!」
その言葉に、あたしの流す涙の性質が変わったのを、はっきりと感じた。