第二章『カウントする悪魔』45
★飛矢折★
気不味い空気が流れている。
ただ待つだけと言う状況だけど………ただ無言のままに二人っきりでいるのは………気不味かった。
……もっとも気不味いのはあたしだけで、彼はそれどころじゃないと思う。
彼を見ると、無言のままあおむけに倒れ、どこか苦しそうに息をしていた。
あたしは、どうする事も出来ない。
武霊使いの意志力の消費は、寝れば治る。でも、それを『無理して起きていると、どこか身体に無理が来る』。そう聞いてる。
彼は少しの間、気を失っていたけど、直に目を覚ましてしまったから………ほどんど意志力を回復出来ていないんだと思う。
その証拠に、彼は立ち上がる事が出来ないし、息も上手く出来ないでいる。
………あたしの為にこんな事になってるのに…………どうする事も出来ない自分に、あたしはぎゅっと拳を握った。
………あれ?ちょっと待って?………意志力って言うのは、要するに意志、つまり、心の指向。って事は、心が動く事を………何か話をすれば………起きていても、回復が早まるんじゃないかな?
…………何もしないより、何かする方がいい。
彼にとっても……私にとっても……………だって……何もしてないと、恐怖がぶり返してきそうだったから………
★夜衣斗★
どうするべきか、考えがまとまらない。
意識を失わない様に必死に集中しているせいもあるが………自分の、一歩間違えれば、取り返しのつかない事をしようとした『あの瞬間』を思い出し、酷い後悔と憤りを覚えていると言うのが……最大の原因だと思う。
自分が最も嫌悪している行為を自分がしようとした事。
自分が最も嫌悪している存在を殺せなかった事。
相反する二つの思いに、意識のぐらつきは加速し、何故か上手く息が出来ないでいた。
っと言うか、寒い。
季節的にまだ海に入るのは冷た過ぎる水温だっただろうし、服は濡れたままだ。
このままでは、下手すれば意志力の低下も合わさって……永眠って事にならないだろうか?
流石に、それはまずいし……同じ様に濡れている飛矢折さんだって……………何故か平気そうだった。
★飛矢折★
何を話せばいいか思案していると、彼があたしの事を見ている事に気付いた。
同時に、彼の身体が震えている事にも……。
気付くべきだった。
私は、寒さに強くなる様に修行を積んでいるから、この程度の寒さは何ともないけど、彼は普通の人。濡れた身体のままじゃ、今の時期でも辛いのは当たり前だと言うのに………どうしよう………ここには、身体を暖めるものも、拭くものもない………少しでも、これ以上身体を冷やさない様にしないと………・。
私は覚悟を決めて、彼に身体を寄せようと、