第二章『カウントする悪魔』36
★飛矢折★
あいつが自分の首に押し込んだ筒状の物にから、何かが注入される音がする。
悪寒が走った。
ほとんど反射的に、彼を一瞬だけ抱き上げて、一緒に飛び退く。
いきなり自分の身体が浮いて、後ろに飛んだとこに驚いて私を見る彼。
彼のスーツはダメージを受けると硬くなるだけで、重さは変わらないから、投げ技を応用すれば、こんな事はわけないんだけど………。
分からなかった。
これまで、あいつに恐怖は感じても、それはあいつ自身と言うより、あいつが『武霊使いだからだと言う事が強かった』。だから、さっき、彼を止めに入る事が出来たと思う。それなのに、急にあいつ自身に強い恐怖を感じた。まるで、『あいつ自身が武霊』になったみたいに………。
★夜衣斗★
いきなり浮遊感を感じたかと思ったら、飛矢折さんに抱かれる様に後ろにジャンプさせられた。
経験した事がない浮遊感に、思わず飛矢折さんを見てしまう。
………前の学校で柔道の授業があって、段持ちの先生に投げられた事があるけど…………技がまるっきり違うとは言え………レベルが違う。素人でも分かるくらい、飛矢折さんは凄かったが………なんで、下がったんだ?
俺はその疑問に、都雅へと視線を向ける。
首に押し込んだ筒をゆっくりと外し、それを投げ捨てた。
投げ捨てた筒を見ると、針が飛び出しており……液体……何らかの薬品が針の穴から滴り落ちてる。
何だ?いったい何な………?
オウキからの『何か』を感じ、オウキのいる方を見ると、抑え付けていたクラッシュデビルがすうっと消えている所だった。
具現化を解いた?一回分の具現化を無駄にしてもいいほどの何かが、今の注射器にあったって事か?
ゆっくり立ち上がる都雅。
オウキが都雅を飛び越えるようにジャンプし、俺達の前に守る様に立つ。
………何か嫌な予感がする………キレていたせいもあるが………今、気付いた。都雅から、『異様な気配』を感じるのを。
その気配の変化を敏感に感じて、飛矢折さんは後ろに引いたんだろうが………間を与えず、眠らせるべきだった……いや、殺すべ………その発想は止めろ俺!また殺意に引っ張られたいのか………っくそ!二つの意思で、思考が鈍る。
殺意と理性の二つの意思に、一瞬の苦悩。
その隙に、都雅は………!