第二章『カウントする悪魔』35
★飛矢折★
「死ね」
殺意と共にそう彼が口にした瞬間、それまで恐怖で固まっていたあたしの身体は、自然と動いて、
「駄目!」
と叫んでいた。
彼のあのスーツは、見ていた限り、衝撃を受けると身体の表面が硬化して、身体にダメージが来ない様する。
だから、彼を止めるには………。
一気に間合いを詰め、一気に振り下ろされ様としている刀を持った腕に掌ていを放つ。
「っ痛!?」
予想以上の固さに腕と肩に痛みが走るけど、振り下ろされそうになっていた腕の動きが一瞬だけ止まる。
その一瞬を逃さないで掌ていで丸めた指を解いて腕を捕まえた。
だけど、筋肉が全く付いていなさそうな彼とは思えない凄い力に、刀を振り下ろす事を止められない!
「黒樹夜衣斗ぉ!」
反射的に彼の名前を大声で言った瞬間………彼の腕が止まった。
あいつに向けられていた刀は、少し額を切って止まっている。
ほんの少しでも彼が止めるのが遅かったら…………死んでいたと言うのに、あいつは『笑っていた』。
その異常性に、ほんの少し抑えられていた恐怖が、甦り、身体が硬直してしまう。
………彼は無言で、あいつを見ている。
でも、その腕は、握っている私には、はっきりと『震えている』のが分かった。
★夜衣斗★
怖い。怖い………自分が怖い。
「黒樹夜衣斗!」
飛矢折さんに大声で名を呼ばれるまで、俺は自分の殺意に身を任せ………止められなかった。
そんな事をしてはいけないと頭では分かっていても………止められなかった。
………いつもそうだ。俺は時として感情を爆発させて………止まれなくなる。
簡単に言えばキレたっと言うやつなんだろうが………言葉に出来たからと言って、どうこうなんて出来はしない。
もっとも、キレたからと言って、何かわけのわからない事をするわけではない。………ただ、内に抑え込んでいた負の考え、誰かに向けた殺意を実行しようとするだけ……だから、俺は、いつも心を抑制しようとする………それが、より、抑え込まれた負を、殺意を、増加させると分かっていながら………もっとも、その殺意に俺の能力……ありとあらゆるものが追い付いていないから………キレても、ただ単純な暴力を振るうしか出来ていなかった………そう、殺意に、追い付いていなかった。だから、俺は今まで…………でも、今、俺は、『殺意に追い付いた事を自覚した』。
怖い………そう思いながら、未だに燃え続ける負の感情に………俺は殺意を消せないでいた……都雅に向けている殺意が、元々別の奴らに向けられていた殺意だというのに………。
恐怖から来る正の感情とと、怒りから来る変質した負の感情との間に、身体が震える。
不意に、都雅の右手が動き………手に『何か』が握られているのが視界に入った。
顔は都雅に向けられてはいるが、意識はその葛藤に向けられていたので、視界に入っているその光景を理解し、反応するのが遅れる。
PSサーバントに守られている。っと言う油断があったからかもしれないが………都雅の次の行動を、俺は止められなかった。
都雅は、右手に持った『筒状の何か』を『自分の首に押し込んだ』。