第二章『カウントする悪魔』32
★飛矢折★
え?
あいつのその言葉に、あたしは思わず彼を見た。
彼はその言葉に、途中まで言い掛けていた武霊への命令を止め………全ての動きを止めていた。
それまで僅かに震えていた身体の震えが止まり、それまで分かり易かった感情が感じられなくなって……彼の武霊が戸惑った様に彼を見ている。
「分かるんだよ」
あいつはにやにやと笑う。
「俺も、いじめられた事があるからな……雰囲気でわかんだよ。お前はいじめられ、『死のうと思った、いや、死のうとした事がある』ってな」
彼は何も言わない………何の反応もしない。
「っは!お笑いだな。そんなお前が、なんで『そっち側』にいる?」
そっち側?
「お前だって感じているはずだ。この世は『狭い』ってな」
この世が狭い?さっきからあいつは、何を言って
不意に、彼が歩き出した。
あいつに向かって。
★夜衣斗★
いじめられていた。
その言葉を聞いた時、俺は消したくても消せない記憶の渦に呑まれた。
嘲笑・暴力・罵声・嘲りの言葉・無関心を装う他の生徒の視線・外と内の痛み………そして、
ぐるぐると回る思い出したくない記憶に………『押し殺していた悪意』が溢れ出す。
溢れ出した悪意に、制御の利かない怒気が現れ、俺の心をどんどん冷たくさせる。
正直、俺は都雅の言葉を聞いていなかった。
………だが、何故か、都雅が鼻で俺を笑った事だけは………記憶の中にある『あいつらと同じ笑い方』に聞こえて……辛うじて残っていた理性が消し飛んだ。
足が勝手に前に進み、PSサーバントを具現化させ、装着。
俺は、
今、溢れ出す
『殺意』
支配されていた。