第二章『カウントする悪魔』7
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「一、二、三、四、五、六、七」
星波警察署にある留置場内で、その男は目を覚めるといつも数を数え始める。
それは男が寝るまで続く為、留置場にいた全ての者達をノイローゼしてしまい、今ではその男以外に留置場内で動くものと言えば、彼を見張る監視カメラぐらいだった。
ぶつぶつと数えるその男は、黒樹夜衣斗が来る前に星波町を騒がせていた連続婦女暴行魔の犯罪武霊使い。
名前は、五月雨 都雅。っと名乗っているが、偽名である可能性が高く、星波町に来るまでの男の素性は一切分かっていなかった。
本人も明らかに思い付きの名前を名乗った以外、ずっと数を数え続けており、素性に関する情報は一切聞き出せずにいた。
これほどの犯罪者なら、星波町に来る前から犯罪を犯している可能性は高いと考え、問い合わせをしているが、未だに返答は返ってきていない。
仕方が無しに、現在、星波警察は『星波町外で通じる証拠の偽装』を進めている。
星波町で起こる。特に、武霊に関する事件は、忘却現象の影響で、まともに立件する事が出来ない。仮に、そのままの状態で立件し、拘置場に連行する為に星波町外に出すと、下手をすれば『その罪その物が無かった事になる』可能性があった。
そうさせない為に、星波警察は、犯罪武霊使いを捕まえる度に、その犯した犯罪を外で立件出来る犯罪に偽装する必要があり、どうしても通常の犯罪以上に立件まで時間が掛かってしまう。また、場合によっては、実際に犯した犯罪より軽い犯罪で立件する事がある。その為、近年、凶悪さが増す犯罪武霊使いに対しては、星波町内で独自に刑罰を行うべきと言う話が出始めている。そして、その動きは高神姉弟が捕まった事により、加速し始めているが、今はそれほど関係無い話ではある。
「五十六、五十七、五十八、五十九、六十」
そこまで数えて、都雅は数えるのを唐突に止めた。
そして、『武霊封印』と無数に書かれた壁を見詰める。
星波警察署の留置場には、『武霊の具現化を封印する特殊な文字』が壁や床などのあらゆる所に書かれている。
これは『書いた文字に力を込める事が出来る武霊』によるもので、星波町には何人かそう言う事が出来る武霊を持つ武霊使いがいる。
武霊は武霊使いが具現化を止めれば、消える。勿論、武霊によって構成されているあらゆる物は消えるが、その武霊によって起った現象は消えない。それを利用した文字なのだが、物理法則に沿わない現象は、武霊同様に消える運命にあるらしく、定期的に書き直さなくていけなかった。その為、ここ以外ではこの武霊封印は行われていない。
その文字の一つを都雅は凝視していた。
文字自体に何かが起こっているわけではない。
だが、都雅は何かを感じ、その文字を見ている様だった。
唐突に、『文字を縦に割る様に刃が飛び出した』。
都雅はそれに対して何の反応を示さず、ただただ凝視するだけ。
飛び出した刃は、壁をまるでバターの様に切り、人が通れるぐらいの大きさの穴を開け、壁が倒れると同時に射出され、監視カメラを破壊した。
そして、監視カメラの異変に気付いた警官が留置場に駆け付けた時には、既に都雅はいなくなっていた。