第二章『カウントする悪魔』3
★飛矢折★
朝日部長が、あたしの事を心配して、何かと気に掛けてくれるのは………とても嬉しんだけど………どうしよう………いえ、別にどうって事は………ない。うん……うん。そう。どうってことない。
「飛矢折さん」
不意に横から名を呼ばれて、反射的に裏拳を放ってしまう。
いけないって思った時には………何か見えない柔らかい壁に裏拳は止められていた。
恐る恐る隣を見て見ると、そこには彼・黒樹夜衣斗君がいて、固まっていた。
前髪で視線が分からないけど、多分、あたしの手の甲を見ていると思う。
「…………念の為……だったんだけど」
「ご!ごめんなさい」
ぼそっと言った彼の言葉は、ちょっと震えてて、あたしは平謝りするしかなかった。
………そう言えば、彼の声を聞いたのって、昨日の自己紹介以来な様な気がする……………無口な人。
「あたしの家は、昔からの武術家の家なの………その、だから、私、幼い頃から武術の修行をしてて………でも、あたしはまだまだ未熟で、つい、驚いたり、不意を付かれたりすると、その相手に、反射的に技を掛けてしまう癖があって………」
部長の有無も言わさぬ依頼で、一緒に帰る彼に、あたしは自分の事情を説明していた。
今日の部活は日が暮れるまで行われたので、他に下校している学生はいない。
ある意味助かったけど、ある意味窮地に立たされている気がする。
その意味を………あたしは敢えて考えない。……ええ、考えません。
「子供の頃に、隙が出来たら攻撃される修行をしてたのがいけないと思うだけど………」
………あ。今、ちょっと引かれたかも…………よくよく気を付けて見れば、彼、前髪で表情は見え難いけど、それ以上に行動や反応が素直で、分かり易かった。
「勿論、普段なら意識すれば抑えられるんだけど………今は……」
あたしはついその先を言い淀んでしまった。
その先の言葉は、今のあたしから言えば………更に自分を不安定にさせてしまいそうで………きっと、あたしの事は村雲君あたりから聞いて知っているはず。
一週間前、私は………。